社会福祉法人スマイリング・パーク理事長・山田一久さんと語る、現場起点のDXと職員の幸せ
ホスピタリティが当たり前とされる場所で、職員たちは疲弊していました。
ご利用者のために、地域のために、職員は働いてきました。
けれど、その頑張りの多くには、紙に記録する業務や繰り返し行う作業が多くありました。
ご利用者と向き合う時間よりも、忙しく日々の業務をこなすことになっていた現実が、そこにはありました。
ホスピタリティだけでは、もう限界だ
スマイリング・パークもかつて、離職率25%という壁に直面していました。
業務の中で腰を痛めて去っていく職員や、募集をかけても応募が来ない日々に、現場からは「なぜ募集しないんだ」という声が上がりました。
「募集はしている。でも応募がない」この現実は、もう長く業界全体の課題になっています。
「精神論では乗り越えられない」
そこで山田さんが取り入れた最初の一手は、デジタルツールでも業務改革でもなく、リフトの導入でした。
抱えることで起きる事故、腰痛、そして利用者が感じる恐怖。
アメリカの施設を視察した経験が、山田さんの背中を押しました。
「抱えられる側は、怖いんですよ。身体が大きな男性に持ち上げられる。女性だったら不安に思っても、言えなかったりする」
その気づきから、リフト導入へ。
仕組みを変えることで、職員も、利用者も、安心できるようになりました。
「なぜ使うのか」が腑に落ちていたから
スマイリング・パークのDX施策が現場に定着した理由を、山岡は率直に聞きました。
「あらゆる施策を導入して、定着しなかったことはなかったんですか?」
「ないですね」と、山田さんは即答しました。
その理由は、導入の前に「なぜ使うのか」を丁寧に伝えていたから。
DXの施策は職員を守るためだけでなく、利用者に同じ質のケアを届けるためでもある。
その両輪が職員に伝わっていたからこそ、「使いたくない」という抵抗が生まれなかったのです。

また、山田さんは脳波データを活用したケアの取り組みについても触れました。
スプーンの形ひとつで感じる味が変わることや、
誰と一緒に食べるかが脳の状態に現れることをお話しくださいました。
「食って、誰と一緒に食べるかがとても大事なんですよ」
山岡は、ナリコマが向き合ってきたテーマと重なるものを感じていました。
仕組みへの信頼が、現場を支えるということは
多くの現場で共通することなのかもしれません。
食事もまた、誰が担っても同じ質で届け続けることが求められる。
おいしさは、食事そのものだけではつくれるものではなく、
食卓を囲む人、空間、関係性、そのすべてが一口の体験をつくっているのです。
信頼して任せることが、人を育てる
スマイリング・パークでは、感動した体験は自然と現場に還元されるという考えから、自主的なミュージカル鑑賞や音楽会などへの参加が、研修として位置づけられます。
ミュージカル鑑賞後の子育て支援事業の発表会では、
皆が吸収したアイデアを持ち寄り、まるでミュージカルのような作品に。
「ミュージカルに脇役はいないんですよ。みんな主人公なんです」
職員一人ひとりにスポットを当てること。
その感覚が、法人全体に根づいていると山田さんは言います。
山田さんが語った組織づくりの核心は、「信頼して任せる」ことでした。
DXを進める上でも、人材育成においても、みんなが同じスタートを切る必要はありません。
一斉に、均一に、というやり方ではなく、できるところから、得意なところから始めていい。
弱みを改善するより、強みを際立たせる。
任せられる状態をつくった上で、任せきる。
その想いが、職員の主体性を引き出していきました。
「雇われている感覚より、自分たちで回しているという感覚になっているんじゃないでしょうか」
山田さんのその言葉に、山岡は「それが一番ですよね」と納得した様子で返していました。

「介護はめちゃくちゃいい仕事なんです」
精神論ではなく仕組みで人を守り、データではなく信頼で人を育て、そして職員一人ひとりが主役であるという確信を持って経営する。
山田さんが積み上げてきたものは、DXの成功事例ではなく、人が働き続けられる場所をつくるストーリーでした。
「介護はいい仕事なんです、めちゃくちゃ」と、山田さんは微笑んで言いました。
その言葉が、山岡の中でずっと残っています。
食を届けることも、ケアを届けることも、突き詰めれば人が人のそばにいられる仕組みをつくることなのかもしれない、と感じた対談でした。
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