接遇は「通常よりも丁寧な接客」「おもてなしの心で接する」などの意味が込められた言葉です。また、コンプライアンスには、法令遵守という意味だけでなく、企業倫理や社内・社会規範に従うといった意味も含まれています。接遇やコンプライアンスは、どちらも介護サービスを提供するうえで欠かせない大切な要素です。この記事では、接遇・コンプライアンス研修について、研修の必要性を改めて振り返りながら、倫理研修や法令遵守研修のポイント、接遇力向上に向けた研修のコツを解説します。
目次
接遇・倫理・法令遵守の研修の必要性
接遇・倫理・法令遵守に関する研修は、介護事業所の法定研修にも下記の研修として含まれています。
- 接遇に関する研修:訪問介護事業所と訪問入浴介護事業所で必須
- 倫理・法令遵守に関する研修:全ての介護事業所で必須
介護では、利用者さまとのコミュニケーションを円滑に保つことやより良いサービスを提供するうえで、接遇マナーが重要視されています。安全で快適な生活を提供されていても、気分を害する言葉遣いなどがあると利用者さまの暮らしの質は低下します。尊厳を傷つけることにもつながり、信頼関係も築けなくなってしまうでしょう。信頼関係を上手く築けないと抵抗されやすくケガなどの危険につながるおそれがあり、安全な生活の提供の妨げになることもあります。
利用者さまの尊厳を守り安心して暮らせる環境やサービスを提供し、利用者さまも含めて社会的信頼を得られる介護事業所であるためには、倫理を常に意識し、法令を遵守することが必要不可欠です。また、介護に関わる法令は職員に向けた内容もあるため、法令遵守は職員を守るうえでも大切な事柄です。

介護事業所のコンプライアンス違反とリスク
残念ながら、介護事業所でのコンプライアンス違反は珍しくありません。厚生労働省の「令和6年度 全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料 総務課介護保険指導室」の中でも、毎年、指定基準違反や介護報酬の不正請求、利用者への虐待行為などが起き、指定取消等の行政処分が行われていることが提示されています。同資料の中で、令和5年度の指定取消等の行政処分は下記の件数が挙げられました。
令和5年度の指定取消等の行政処分:合計139 件
- 指定取消:60 件
- 指定の効力の一部停止:64 件
- 同全部停止:15 件
令和2年度~令和5年度にかけては、令和5年度が一番件数が多く、令和4年度と比較して約60%増加した結果となっています。
コンプライアンス違反は、利用者さまの生活を脅かすだけでなく、介護事業所としての立場や信頼を失うことにもつながります。実際の違反行為が個々の従業員によるものであっても、事業所としての責任を問われるでしょう。コンプライアンス違反を起こさないためには、事業所として対策を講じることが必要で、個々の従業員に日頃からコンプライアンスの意識を高く持ってもらうことが大切です。そのためにもコンプライアンス研修は重要です。
全ての介護事業所に必要な倫理研修・法令遵守研修のポイント
先述したように、倫理や法令遵守の研修は全ての介護事業所で行うべき研修です。研修では、倫理や法令遵守の重要性をしっかりと伝えることがポイントです。まずは「倫理とは何か?」「法令遵守とは何か?」といった基礎知識から、わかりやすく解説していくと良いでしょう。
基礎知識に加えて、介護職に求められる事柄や、倫理や法令に反した行動を取るとどのようなリスクや罰則があるのか、といった具体的な内容を盛り込むとよりわかりやすくなります。研修のゴールとしては、ただ知識を身に付けるだけでなく、日頃から意識したうえで業務に取り組めるようになることも大切です。定期的に研修を繰り返し行って意識を促し、自然に身に付けてもらえるようにしましょう。

倫理研修では倫理観にも注目
倫理という言葉には「人として守り行うべき道」や「善悪の判断において普遍的な規準となるもの」といった意味がありますが、日常生活の中では感覚として捉えられることも多い部分のため、共通理解がやや難しいのが難点です。そのため、介護職に求められる倫理観や、事業所全体で守りたい倫理観のように、統一性を意識した内容で展開していくのも良いでしょう。
倫理の考え方としては、公益社団法人日本介護福祉士会の「日本介護福祉士会倫理綱領」や「日本介護福祉士会倫理基準(行動規範)」が参考になるため、研修内容の参考にしてみてください。
法令遵守は関連する法律や事例にも注目
法令遵守の研修では、関連する法律や事例にも注目して内容を組み立てるのがポイントです。介護職には、例えば下記のような法律が関係しています。
- 介護保険法
- 労働基準法
- 個人情報保護法
- 高齢者虐待防止法
これらの法律について、概要をわかりやすく解説し、身近に感じてもらうことからスタートするのも役立ちます。そのうえで、実際に違反したケースなどを事例として紹介し、どのような違反や処分があったかを具体的に解説するとわかりやすいでしょう。法令違反には、違反の意識がないまま、良かれと思って行われてしまうケースもあります。研修では、講義だけでなくグループワークを取り入れるとより実践的に学ぶことができるため、学習方法も工夫してみましょう。
接遇力向上のための研修のコツ
親切心からの言葉や行動が利用者さまを不快にしてしまうケースもあるため、接遇は利用者さまの立場になって考えることも大切です。接遇力向上のための研修では、接遇を「利用者さまへの思いやり」に留めず、個々の従業員が接遇のスキルを身に付けて実践につなげられる内容を意識してみましょう。下記のポイントを参考に、取り組みやすい研修内容を検討してみてください。
接遇の必要性を伝える
まずは、接遇の基礎知識や接遇マナーの必要性を改めて伝える内容を取り入れるのも良いでしょう。介護職に慣れている従業員であっても、慣れによって接遇マナーが見落とされる場合もあるため、振り返りとして基礎的な内容を組み込むことも効果的です。自社施設で実際にあったクレームやよく起こりやすいクリーム事例を紹介し、気付きにつなげるのも役立ちます。

接遇マナー5原則は具体例を交える
接遇の基本の5原則をわかりやすく提示し、個々の項目の理解度を深めてもらう内容を取り入れてみましょう。例えば下記のように、5原則の項目だけでなく、実践しやすいポイントやチェックリストなどを取り入れて解説するとわかりやすいです。
【接遇マナー5原則】
挨拶
・相手の目を見て挨拶をしましょう。
・伝わりやすい声量を意識していますか?
言葉遣い
・丁寧な言葉でわかりやすい表現を心掛けましょう。
・親しみの気持ちが馴れ馴れしい言葉になっていませんか?
表情
・思いやりや優しさの気持ちを表情でも表しましょう。
・利用者さまが話しかけやすい表情ができていますか?
態度
・丁寧な言葉遣いだけでなく丁寧な態度も意識しましょう。
・不快にさせるような態度や乱雑な態度をとっていませんか?
身だしなみ
・衛生的な服装や髪型を心掛けましょう。
・アクセサリーを付けたまま業務をしていませんか?
ロールプレイングを取り入れる
研修では講義だけでなく、ロールプレイングを取り入れるとより効果的です。利用者さまに応対するときの表情や姿勢、目線の合わせ方などは、実際にやってみて初めて気付くこともあるでしょう。従業員にペアになってもらい、利用者側とヘルパー側の役柄を決めて起こりやすいシーンを演じてもらうと、普段の業務でも実践しやすくなります。
接遇・コンプライアンス研修でより質の高い職場へ!
倫理や法令遵守、接遇は、関連する内容もあるため、個々の質を極めることで業務全体のスキル向上も期待できます。これらの研修によって、従業員間のコミュニケーションがより良好になったり、個々の従業員のスキルアップにつながったりとさまざまなメリットがあります。より質の高い職場を目指して、効果的な接遇・コンプライアンス研修を構築しましょう。

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