Project Story 04
生産管理部 DX推進室
献立作成の概念を「破壊」し「再構築」。AIを利用した献立作成のシステム開発プロジェクト
プロジェクトの概要
これまでの献立作成は「ヒトの習熟度」によるものが大きかった。「栄養価」「食材や味の重なり」「食べやすさ」「季節性」「厨房や工場の負荷」などを考え、ニーズに合わせて修正作業も発生する。ヒトがかかりっきりになるこの献立作成業務を概念の「破壊」から行い、新たなシステムの構築を行った。背景が異なるメンバーも、本プロジェクトのおもしろさの一つ。
プロジェクトメンバー
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S.Y
生産管理部 DX推進室 部長
システム部でITインフラの整備や全社横断的なシステムを拡充させ、2022年よりDX推進組織を立ち上げ。AI等の新技術を用いて進行中。本プロジェクトのプロジェクトマネージャー。
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K.Y
商品企画部 献立課 主任
新卒でナリコマに入社後、献立課に配属。配属後、献立作成やさまざまな調査に携わる中で経験を積み、現在は献立DXプロジェクトに参加している。本プロジェクトでは、要件定義およびテスト担当。
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K.T
生産管理部 DX推進室
デジタル広告の営業、自動車業界のエンジニアを経験した後、ナリコマへ入社。働く人の時間を減らすことをモットーに業務改善支援を行っている。本プロジェクトでは、エンジニアを担当。
プロジェクトの背景
献立作成は「習熟度」も「時間」もかかる。かかりっきりになるもどかしさがあった
K.Y
栄養士にとって、食べる人のことを思い献立を考えるのは、大変ですけれど楽しい仕事です。しかし、栄養価や素材の重複、コストなどを考慮しながら献立を作成するのは業務の習熟に時間がかかるうえ、ヒトの手に頼りっきりでした。
献立の作成はもちろん、物価高の影響で食材が入手困難になったり、そのほかさまざまな理由で献立の変更が発生したりすると目の前の対応で精一杯になります。新たなサービスや仕組み作りに十分な時間を割くことができず、もどかしさを感じていました。
業務の効率化とさまざまな変化に強い体制づくりを目的として、今回の「献立作成システムの構築プロジェクト」が発足されましたが、私がメンバーにアサインされたときは「栄養士である私がシステムの構築でできることはあるのかな」や「本当にこれまでヒトが行っていた献立作成が楽になるのかな」といった不安もありました。
S.Y
献立を組み替える頻度は年々増加していて、変更業務の大部分をヒトが行っているので業務の負担が大きかったんです。献立の変更が増えた背景には、お食事を食べるご高齢者のニーズが多様化したことや、社会情勢により原材料が高騰したりということがあります。
もちろんすべて手作業というわけではなく、作成した献立をデジタルで管理する仕組みはありました。しかし、献立の組み立てやチェック作業の大部分はマンパワーが必要だったんですよね。そこで献立作成業務を一旦フラットにして、「効率化」「ヒトへの依存度の少なさ」「再現性の高さ」そして「変更に強い」システムを構築する必要がありました。プロジェクトの裏話になりますが、発足当時、社内でシステム開発の大きなプロジェクトが進行していたことにより、システム要員をこちらのプロジェクトに十分アサインできませんでした。
そこで、「全社を横断してデジタル化を推進する人材(=コアデジタル人材)を育成する」ため、AIの開発実積を持つメンバーを軸に、これからデジタルの分野にも知見を深めていけるように職種のちがうメンバーをアサインしました。K.Yさんは栄養士からの本プロジェクトの参加で、献立作成のスペシャリストです。また、K.Tさんは中途入社してすぐ参加し、ナリコマの献立やシステムを知るところからのスタートでした。スタッフの経歴や社歴に関係なく進行できたことも、本プロジェクトのおもしろい点かもしれません。
プロジェクト進行の方向性
献立作成の負担はどうすれば減るのか。デジタルの可能性を考え、かたちにする
S.Y
どんな形のシステムがあれば献立作成が楽になるだろう、とアイデアをホワイトボードに描きだして考えました。結果的に「スマホゲームのガチャ」のような方向性になりましたが、最初は「モニターがたくさんある部屋でかっこよく献立作成をする」アイデアを出しました。そのアイデアは栄養士のみなさんに「ロマンはいいから現実的なものをください」と言われてしまいましたね(笑)。
ガチャ形式は、一ヵ月の献立作成のほかに、指定した一食や一日の単位で代替候補が提案されます。たとえば、一ヵ月の献立のうち一食を変更しただけでも「食材のカブリ」や「栄養価」などで他の献立に影響が出ることがありますが、ゼロからすべて自動生成するのではなく材料に「#(ハッシュタグ)」をつけてルールを決めることで及第点の献立が提案されるようになります。
及第点、と言ったのはやはりヒトの献立作成でしかできないこともあるから。しかし、及第点の献立をもとに、満点の献立を作成するのであれば、従来よりもずっと効率がよいはずです。
K.Y
献立作成では、「チェック作業」のほかに「代替案を考える」ことも大切な業務です。食材のカブりやコスト、工場の負荷などを考え、修正するのは労力も時間もかかり、チェック作業以上に大変さを感じます。
AIの開発実積を持つメンバーから「献立をチェックするだけじゃなく、その後の代替提案までシステム化できる」と聞いたときは驚きました。「そんなこと、本当にできるの!?」と。現場では大変な作業があっても、どうすれば楽になるのかどこをデジタル化すればいいのかわからないですし、悩んでいるスタッフも大勢います。チェックだけではなく献立作成、代替案作成にもAIを使う方向性は、初の試みで期待も大きかったと思います。
K.T
本プロジェクト以前に、AIの開発に成功した事例がありました。この成功した手法を手本に献立作成AIに応用することで、ゼロベースでの構築が不要だったのは進行の大きなポイントだったと思います。
既存のシステムやツール、資料を有効活用でき、システム構築の実現までショートカットできました。ナリコマではシステムを社内で開発しているので、このような応用ができるのだと思います。この献立作成システムも、いつか何かに応用されるかもしれません。
プロジェクトで待ち受けた課題
さまざまな部署と関わるため、業務理解と相互理解の必要性を実感
S.Y
さまざまな課題がありましたが、一言で言うとリソース不足が最大の課題でした。プロジェクトは3年間を3フェーズに分けて進行しており、現在は第1フェーズの終盤になります。先ほども述べましたが、プロジェクト発足当初同時期に基幹システムの刷新も並走していたため、知見の深いメンバーは参画させられませんでした。また、献立作成業務にもITにも理解のあるメンバーが途中離脱するなど苦しい状況が発生しました。
K.Y
商品企画部とDX推進室の協同プロジェクトだったこともあり、互いの部署の業務について理解が乏しいところが課題となりました。献立作成業務において効率化への希望や要望などさまざまな意見があったものの、それを実現するためにどのようにシステム化すればよいのか、またどこまでをシステム化すべきかを総合的に理解することが難しい状況でした。
K.T
私は、中途で入社してすぐに本プロジェクトに参画しました。ナリコマの献立や業務についての知識は、作業しながら都度聞いて蓄えていきました。課題といいますと、プロジェクト進行において、業務の基本的な情報やプロセスが整理されていなかったことでしょうか。そのため、プロジェクト全体の理解と効率的な進行も難しくなりました。
どのように課題を乗り越えたのか
まずは行動してみる。部門間の相互理解に加え、自分自身の知見も広げた
S.Y
リソース不足に関しては、今いるメンバーでできることに集中することを徹底しました。そのために、ゴールまでにハードルを細分化し心理的負担を減らした上で、要求をMoSCoW分析して優先順位をつけ、本当に必要なモノに絞り込みました。さらに、業務側の部門長に相談して、業務適用する順番を再定義しました。最終的に、効果の高い機能でも使う時期が先のものは後回しにするといった調整を行いました。
K.Y
私は、各部署の相互理解を促進するために行動しました。たとえば、プロジェクトのメンバーから献立課へ聞き取りを行ってもらい、献立作成の全体像をまとめるなど。また、私自身もデジタルの知識を身に付けるため過去のシステム開発の事例から必要な条件を学び、相互理解を深める努力をしました。地道な取り組みでしたが徐々に成果が現れ、プロジェクトに関わる皆が同じ方向を向くことができるようになったと感じました。この調整により、プロジェクトの進行がスムーズになりました。
K.T
実際に献立作成を行うメンバーがどのような業務を行っているのか理解を深めました。二週間〜一ヵ月の期間、メンバーと席を隣にし何気ない会話も含めて部門全体にわたるヒアリングを実施しました。このことにより、メンバーの実際の作業状況やニーズを把握し、より効果的な課題解決につなげることができました。
また、さまざまな要素と課題の関係性を可視化するために、マインドマップツールを利用して「課題関連図」を描きました。プロジェクトの全体像の整理を行い、起こりうるリスクを想定し事前に周到に準備することで、プロジェクトの円滑な進行とメンバー間の共通理解を確立することができました。
プロジェクトによって得られた成果
献立作成の概念を一度壊し、再構築。使う人が満足できるシステムに向けて
K.Y
部署を横断したプロジェクトなので、多くの人と関わることができ、献立作成に関連する情報を整理整頓することができました。一方で、献立作成に関わるメンバーを早い段階から巻き込むことが難しく、情報発信について学んでいく必要があるとも感じました。
また、私自身、献立作成業務を比較的長い期間していたためどうしても既存の形に囚われてしまいがちでしたが、献立作成未経験の方たちとのプロジェクトだったからこそ新しい形のシステムができあがったと感じています。
K.T
私は、メンバーを積極的に巻き込んで仕事を進めたことで、チーム全体が一丸となって仕事を進める雰囲気を作り出せたこと。そして、そのことによって、要求に応えるだけでなく、顧客部門の欲求に真摯に応えることで、本当に皆さんが満足するシステムを構築することができたのが大きな成果でした。
S.Y
実際に献立作成に関わるメンバーが使いやすいようUIを工夫しました。これまでヒトの習熟度に頼っていた献立作成を一度全部壊して、献立の知識のない人であってもパッと使えるシステムを目指しました。
今回のプロジェクトを通じて、就業体験コンテンツとして専門職大学とのつながりや学生との接点も生まれ、その学生に簡単な説明だけをして使ってもらったところ「このボタンを押せばいいんですよね」とすぐに使えました。
プロジェクトを通じて感じた仕事のやりがいと面白さ
社内初の試みの中で、皆で奮闘。自身の成長を感じることができた
S.Y
自社のビジネスの中核である献立そのものに携わるプロジェクトであり、工場の負荷やコストをエンジンに組み込めば、工場の負担軽減と収支良化が実現され、しっかり現場で働くヒトに効果が及ぶことが大きなやりがいでした。献立作成にかかるヒトの手は、そもそも人材不足や嗜好の変化といった課題が多様な現状にそぐわず、AIでアシストする必要がありました。その中で、業務改善というよりも、これまで中々なかった「破壊」に近い発想でアプローチできたこと。そして、栄養士とエンジニアでのコラボレーション、若い世代の台頭があったことに仕事のおもしろさを感じることができました。
K.Y
デジタルの活用に興味を抱いていたため、その分野での具体的な取り組みが実現できたことにやりがいと面白さを感じました。献立課のメンバーからは、既存の業務においてシステム化できないかといった意見が出始め、徐々にその考えが広がりつつあることを実感しています。
K.T
今回のプロジェクトは、社内で誰も試みたことのない挑戦でした。その中で、自分がやりたいと思っていたことを実際に取り組む機会があり、興味を持っていたことを具体的な成果物として形にできたことは、本当に得難い経験でしたし、この挑戦に取り組むことで新しい視点を得ることもできました。また、各部門が異なるやり方や考え方を持っている中で、それらを共有することによって、メンバーの思考の広がりや成長を感じることができたことは、自身にとって大きなやりがいとなりました。
プロジェクトの完了後
さらにシステムを使いやすくブラッシュアップ、他部門からも期待されている
まだ開発途中でありますが、特定の献立に関しては一ヵ月の献立が数分程度で作成でき、ヒトによる修正も数手程度で済む精度を担保できました。献立の自動作成システムにより、ヒトの手は献立の中に驚きやアクセントを加えることに特化し、そのほかはデジタルで業務を効率化できるようになりました。
今後はディープラーニングを入れるなど、より「ヒトの手の習熟度」に近いものを目指すつもりです。また、中期的には製造コストや年間購買とも連動させることで、サプライチェーンの円滑かつ精緻なコントロールが可能であり、調達部門からは大きな期待を寄せられています。