近年はさまざまなコストの高騰が注目されていますが、人件費もそのうちの一つ。多くの企業は一定数の従業員を雇い、日々の業務を遂行しています。今回は、その日常的な場面にも深く関係している「最低賃金制度」についてお伝えしましょう。厚生労働省が定めるガイドライン、メリット・デメリット、関連する加算制度などをまとめて解説。ぜひ最後までお読みいただき、最低賃金制度の理解度アップにお役立てください。
目次
最低賃金制度の概要
企業運営にかかるコストをうまく調整するには、最低賃金制度についてもきちんと把握しておくことが重要です。はじめに、最低賃金制度の概要(ガイドライン)をみていきましょう。
最低賃金制度とは
最低賃金制度は、年齢や雇用形態に関係なく、すべての労働者に対して最低賃金額(時間額)を保障するものです。使用者である企業等は、最低賃金額以上の賃金を支払うことが義務付けられています。地域別のほか、特定の産業において設定される最低賃金もあり、それぞれの詳細は以下の通りです。
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最低賃金の種類 |
適用される者 |
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地域別最低賃金 |
都道府県ごとに金額を設定 |
年齢や雇用形態(正社員・契約社員・パート・アルバイト・嘱託等)に関係なく、すべての労働者に適用 |
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特定最低賃金 |
地域別よりも高水準の最低賃金にすべき産業について設定
※令和7年9月1日現在の設定件数:224件 |
特定地域内の特定産業における基幹的労働者に適用
※「18歳未満または65歳以上である」「雇用期間が一定期間未満で技能習得中である」「軽易な業務に従事している」などに該当する労働者は適用外 |
参考:特定(産業別)最低賃金全国一覧|厚生労働省 (令和8年1月17日現在)
どちらにも該当する労働者に対しては、高い方の最低賃金額を適用。派遣社員などで勤務地が別の都道府県になる場合は、現地の最低賃金額が適用されます。仮に、使用者と労働者の合意により最低賃金額以下の支払いを決定したとしても、それは無効です。また、地域別最低賃金以上の支払いを行わない使用者には罰金が科されます。
令和7年度に実施された地域別最低賃金の改定では、全国平均が1,121円になり、すべての都道府県で1,000円超を達成したことがニュースでも報じられました。近年続いている物価高騰の状況において、こうした動きは社会全体にとって大きな影響があるといえるでしょう。
最低賃金制度のメリット・デメリット
続いて、最低賃金制度がどのようなメリット・デメリットをもたらすのか、詳しくみていきます。

最低賃金制度のメリット
所得増加と生活水準の維持・向上
最低賃金額の見直しや引き上げが行われることで、労働者の所得は増加します。生活水準の維持・向上が実現し、充実感や満足感を得やすくなるでしょう。また、経済状況は心身の健康に影響を与えます。収入が安定すると健康管理も行き届くようになるため、生活習慣病やうつ病など、さまざまな疾患の予防につながります。
ワークモチベーションと生産性の向上
前述した所得増加は、労働者のワークモチベーション向上に直結します。労働者が意欲的に働くようになれば、生産性も向上。使用者である企業等にとっては、業務体制に余裕が生まれたり、利益増加につながったりするため、非常に大きなメリットがあります。
他社との差別化による人材確保・離職防止
最低賃金制度は地域や特定産業における賃金水準を明確に示しています。労働者を集めるには、まず、誰もが魅力を感じるような求人内容にしなければなりません。他社よりも高い賃金にして差別化を図ることで、優秀な人材を確保しやすくなります。また、既存の社員やパートタイマーに対しても、できるだけ高い賃金を提示することで、離職防止の効果も期待できます。
消費行動の活発化
最低賃金制度によって労働者の所得が増加するとお伝えしましたが、そのメリットは日本の経済全体にも影響を与えます。旅行や外食など、それまで控えていた消費行動が活発化し、経済の好循環が生まれます。
最低賃金制度のデメリット
“年収の壁”を考慮する必要性
扶養に入っている労働者は、一定の収入額を超えないよう、“年収の壁”を考慮して働かなくてはなりません。最低賃金額が引き上げられると労働時間を減らすことになり、現場は人手不足に陥ってしまう可能性があります。
令和8年1月17日現在、扶養から外れて社会保険料を支払う基準は年収106万円・130万円とされていますが、最低賃金額が上昇している現状にあわせ、106万円の基準は将来的に撤廃される予定(令和7年6月より3年以内を予定)です。“年収の壁”については今後も変化する可能性があるため、労働者も使用者も、政府の動向にきちんと目を向けておく必要があるでしょう。
人件費増大による人員削減・廃業の可能性
最低賃金が引き上げられると、使用者側には人件費増大というデメリットが生まれます。すでにお伝えした通り、生産性向上や人材確保の面ではメリットがあります。それでも、継続的な人件費の捻出が難しい状況になれば、結局は人員を削減するしかなくなってしまうのです。
コストバランスが崩れたまま運営を続けていれば、当然ながら廃業のリスクも高まります。そのため、使用者である企業等においては、より綿密なコスト管理をすることが重要といえるでしょう。
最低賃金引き上げ時は収支シミュレーションが重要
使用者側が最低賃金制度とうまく付き合っていくには、収支シミュレーションを行い、コストバランスを整えなければなりません。例えば、中小企業庁による賃上げ・最低賃金対応支援特設サイト「ミラサポplus」では、基本的な情報を入力するだけで人件費の増加額(参考値)を確認することができます。また、中小機構によるサイト「儲かる経営 キヅク君」では、利益増加の手助けとなるシミュレーションサービスを提供しています。意図しない人員削減や廃業に至らないためにも、このようなツールを活用し、しっかりと準備することが重要です。

各種支援制度も事前にチェック!
事業規模・内容などで条件は異なりますが、最低賃金引き上げに伴う支援制度が利用できる場合もあります。厚生労働省・経済産業省・中小企業庁、各都道府県など、支援情報は各方面から発信されています。支援制度が利用可能かどうかによって、コスト管理の方針や施策も変わるかもしれません。こちらも収支シミュレーションと同様、事前に調べておくことが大切です。
最低賃金に含まれる?処遇改善加算とは
処遇改善加算は、介護職員や保育士などの人材確保を目的とした公的な制度です。要件を満たした介護福祉施設や認可保育所に対し、介護報酬・公定価格に上乗せして手当が支払われます。加算として受け取った分については、介護職員や保育士の賃金改善に役立てることが義務付けられています。
介護分野においては、もともと介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算・介護職員等ベースアップ等支援加算の3つが運用されていました。令和6年6月以降は介護職員等処遇改善加算(加算I〜IV)として一本化され、従来よりも高い加算が取得しやすい制度になっています。また、保育の現場における処遇改善加算も令和7年度から一本化され、区分①〜③を設定した新制度として生まれ変わりました。

最低賃金に含まれるポイントは「固定的な支給」
処遇改善加算の分が最低賃金額として含まれるか否かも、きちんと理解すべきポイントです。以下の引用文にある通り、毎月決まったものとして支払われている分は最低賃金額に含まれます。しかし、介護職員や保育士の賃金改善という目的がある以上、加算なしでも最低賃金額を満たしているほうが理想的なのです。資金が限られる介護福祉施設や認可保育所では難しいこともあるかもしれませんが、実際には、賃金改善のためにできる限りの努力をしなければならない状況といえるでしょう。
(問1-6)最低賃金を満たしているのかを計算するにあたっては、処遇改善加算により得た加算額を最低賃金額と比較する賃金に含めることとなるのか。
(答) 処遇改善加算の加算額が、臨時に支払われる賃金や賞与等として支払われておらず、予定し得る通常の賃金として、毎月労働者に支払われているような場合には、当該加算額を最低賃金額と比較する賃金に含めることとなるが、処遇改善加算の目的等を踏まえ、最低賃金を満たした上で、賃金の引上げを行っていただくことが望ましい。
※「介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第2版)」より抜粋
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