BCPは「Business Continuity Plan」の頭文字を取った用語で、日本語では事業継続計画を意味しています。危機的な状況下でも重要な事業を中断させない、または早期復旧させるための計画です。多くの事業者にBCPの策定が促されていますが、中でも介護施設ではBCP策定が義務化されています。
この記事では、介護施設でBCPの策定が義務化された背景や内容、BCPの種類、BCP策定に伴う日頃の備えについて、BCPの取り組みや認知度にまつわる調査結果などを踏まえて詳しく解説します。
目次
BCPが介護施設で義務化された背景
近年に発生した新型コロナウイルス感染症や大規模災害を経て、厚生労働省は「令和3年度介護報酬改定」の中で、介護事業所におけるBCPの策定等を義務化しました。感染症や自然災害への対応力の強化に向けて、感染症や自然災害が発生しても利用者さまが必要なサービスを普段と変わらず受けられるようにすることが目的です。そのため、全ての介護サービス事業者が義務化の対象となっています。
緊急時でも安定したサービスを継続して提供するためには、日頃の備えと共に、業務継続に視点を当てた取り組みや準備が必要です。そのため、BCPについても、策定するだけでなく、研修や訓練を行い、実際に緊急時に行動できるようにすることが求められています。下記は、BCPについて具体的に義務化されたポイントです。
- BCPの策定
- BCPに関する定期的な研修や訓練を行うこと
- BCPを定期的に見直すこと
また、BCPの定期的な研修や訓練は、下記のように回数も義務付けられています。
- 入所の場合:年2回以上
- 通所・訪問の場合:年1回以上
介護施設で策定するべきBCPの種類
介護施設では、感染症と自然災害の2種類のBCPを策定することが必要です。厚生労働省では、それぞれのガイドラインが提示されているため、作る際の参考にしてみてください。いずれの場合も、BCPの説明や策定のためのポイントが詳しく書かれています。
自然災害と感染症で別々にBCPを作成する必要があるのは、それぞれの災害の状況や対応が大きく異なる場合があり、重要視する対策に違いがあるからです。例えば、下記のような違いがあります。
自然災害
- 過去の事例からある程度影響の想定ができるものの、主に突発的である。
- 被害が地域または局所的である場合が多い。
- インフラの停止などにより通常業務が休止するおそれがある。
感染症
- 海外から発生した場合は国内で発生するまでにある程度の準備期間があるが、長期化なども含めて影響の予測が難しい。
- 主に人への健康被害が大きく、国内や世界的など被害規模が大きい。
- 通常業務が突然できなくなる可能性は少ないが、感染対策などの業務が一時的に増加するため、対応できる業務範囲が縮小する可能性がある。
自然災害と感染症のBCPは、災害に対して新たに策定する完璧なマニュアルというのではなく、従来の防災計画や感染対策マニュアルにも優れた内容があります。そのため、並行して総合的に考えていくことが役立ちます。
義務化されたBCPへの取り組みと認知度
「令和3年度介護報酬改定」の中で介護事業所におけるBCPの策定が義務化されましたが、同時に3年の経過措置期間が設けられていました。そのため、正式に義務化されたのは2024年4月1日からです。
2023年度に厚生労働省では「介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握およびICTの活用状況に関する調査研究事業」の調査を行いました。調査の結果では、自然災害BCPと感染症BCP共に、「策定中」が半数を占めており、策定が「完了」していたのは約3割で、「未着手」の事業所が1〜2割程度という状況が挙げられています。また、未着手の事業所の策定時の課題も調査したところ、策定にかける時間を確保することが最も多い結果となり、策定のための時間が取れないことがわかりました。
こうした背景がある中、正式に義務化された後の2024年11月に、NSSスマートコンサルティング株式会社は、介護職員に向けて「介護職員の事業継続計画(BCP)認知度」に関する調査を行いました。調査では、22.5%の職員がBCPの策定が義務化されたことを知らない、という結果が出ています。また、BCPの策定状況については、策定していると回答したのは60.8%にとどまり、残りは策定していないまたはわからないといった回答が見られました。
上記の調査結果を見ると、BCPの認知度や取り組み体制は義務化された後も十分とはいえない状況です。しかし、調査の中ではBCPを策定していないことについて約7割が不安を感じており、約8割が勤務先の事業所にBCPを策定してほしいと思っていることもわかっています。また、BCPを策定していない事業所の職員も、半数以上が職員全員で業務継続の意識を高めるべきと考えており、BCPの必要性は伝わっていることがわかります。
近年、介護業界の人手不足は深刻です。これらの調査結果を見ると、BCPの策定が未着手の事業所の「策定のための時間を確保できない」という課題が、正式に義務化された後も解決できていない状況をうかがい知ることができます。
参照:厚生労働省 介護サービス事業者における業務継続に向けた取組状況の把握およびICTの活用状況に関する調査研究事業 2023年度
BCP策定はコツを抑えれば難しくない!
介護施設では2種類のBCPを作らなければならないため労力もかかりますが、必要な情報を集めてコツをおさえて作成すればそれほど大変ではありません。厚生労働省のホームページでは、BCP策定のひな形や作り方を解説した動画が配信されています。また、自治体でも、BCP策定に役立つ情報発信や支援事業があり、資料配布やセミナーなどが行われています。このような情報を役立てて、効率良くBCPを策定していきましょう。
BCP策定と合わせて実践したい備え
先述した「介護職員の事業継続計画(BCP)認知度」に関する調査の中では、BCPは策定しているものの改善を希望したい事柄として、備蓄や設備をもっと充実させてほしい、研修や教育を充実させてほしい、という声が多く挙がっていました。BCPは、策定後もその運用に力を入れることが大切です。義務化されたBCPの内容にあるように、最初の策定で終わりにせず、研修や訓練、見直しを経て、より良いものにしていきましょう。
備蓄や設備を充実させるためには、日頃から具体的に想定して準備しておくことが役立ちます。例えば、自然災害対策の備蓄には、食料品や衛生用品、日用品などさまざまなものが必要です。食料品では、とぎ洗いをせずに炊ける無洗米や、栄養を補える高カロリー食や経管栄養食など、簡単に食べられて高齢者の健康を保てるものをストックすることが大切です。また、衛生的に食事できるように、紙の食器やラップなども用意しておきましょう。
消毒剤や絆創膏、包帯なども備蓄しておき、衛生面を保ちながら看護ができる状態にしておくことも大切です。一人あたり1日にどれくらい必要かを、計算して備えておきましょう。
ナリコマは介護食の非常食にも対応しています!
ナリコマでは、介護事業者に向けてBCP対策に役立つ資料配布や無料セミナーを行っています。また、備蓄に役立つ非常食のご用意もあります。ナリコマの非常食は、日常食としての非常食をコンセプトに、普段の食事と同じような美味しい献立を構成しました。誰でも簡単に非加熱調理で用意できるほか、普通食・ソフト食・ミキサー食・ゼリー食の形態を選ぶことができ、介護食にも対応しています。
ナリコマの非常食は、長期保存に適したパッケージで常温で保存できます。食の備蓄も含めて、BCP対策にお悩みの施設さまはぜひ一度ご相談ください。
クックチル活用の
「直営支援型」は
ナリコマに相談を!
急な給食委託会社の撤退を受け、さまざまな選択肢に悩む施設が増えています。人材不足や人件費の高騰といった社会課題があるなかで、すべてを委託会社に丸投げするにはリスクがあります。今後、コストを抑えつつ理想の厨房を運営していくために、クックチルを活用した「直営支援型」への切り替えを選択する施設が増加していくことでしょう。
「直営支援型について詳しく知りたい」「給食委託会社の撤退で悩んでいる」「ナリコマのサービスについて知りたい」という方はぜひご相談ください。
こちらもおすすめ
クックチルに関する記事一覧
-
年度末の赤字!予算不足の病院・介護施設の給食費を解決するクックチル
病院や介護施設の給食費・厨房管理費の予算オーバーの悩みは、近年さまざまなところで取り上げられています。物価高騰や人件費の上昇により、年度末の赤字が続くことも珍しくない状況で深刻な課題となっています。そこで注目されているのが、新調理システム「クックチル」です。
この記事では、近年の給食費の赤字について、原因やデメリットを詳しく掘り下げながら、課題解決に役立つクックチルの特徴やメリットを解説します。 -
厨房業務を効率化するコツ!病院や介護施設の人手不足をクックチルで解消
近年の人手不足の影響も受け、厨房業務にはさまざまな課題があります。今回は、どうすれば厨房業務の効率化ができるのか?について、効率化のコツや人手不足の解消にもつながる対策方法、クックチルが役立つポイントについて解説します。病院や介護施設の厨房業務管理にお悩みの際にもぜひご参考ください。
-
給食業務を委託すると食材費はどうなる?物価高騰を上手に乗り切る方法とは
近年、給食業界はよりいっそう厳しい状況にあるといわれています。その主な要因の一つとされているのが、急速に進む物価高騰です。今回は、そんな物価高騰に対して給食業務をどのように行っていくべきか考えてみましょう。
キーワードは、委託給食と食材費。給食業務の委託サービスについて詳しく紹介し、委託にした場合の食材費がどうなるのか解説します。記事後半では食材費削減のアイデアもお伝えしますので、ぜひ最後までお読みください。
セントラルキッチンに関する記事一覧
-
給食委託会社切り替え時に必要なものって?
施設給食に対する悩みが増えてきたら、それは給食委託会社の切り替え時かもしれません。
委託会社切り替えのメリットやデメリット、次の給食会社を選ぶ際に確認しておきたいポイントもご紹介!
給食委託会社以外の運営方式「直営支援方式」についても解説しています。 -
値上げは必須!介護給食の重要性と現状を詳しく解説
介護給食は、全国各地の特別養護老人ホームや介護老人保健施設などで提供されている食事のこと。近年はさまざまなコストが上昇している状況にあり、介護給食の値上げも強く求められています。
本記事では、そんな介護の現場における給食をクローズアップ。給食の重要性についてお伝えするほか、調理にコストがかかる理由や厳しい現状、コスト削減方法などを解説します。ぜひ最後までお読みいただき、参考になさってください。
-
DXリテラシーで給食の現場が変わる!具体的な取り組みやメリットを解説
みなさんは、「DXリテラシー」という言葉に聞き覚えがあるでしょうか? 近年では、業界を問わずDXリテラシーの重要性を意識する企業が増えてきています。今回の記事は、そんなDXリテラシーについて詳しくお届け。「そもそもDXって何?」という疑問を抱く方にもご理解いただけるよう、言葉のルーツや定義、その重要性もしっかりとお伝えします。給食現場における具体的な取り組みやDXリテラシー向上のメリットについても解説。ぜひ最後までお読みいただき、今後の参考になさってください。