大規模地震や大型台風など、自然災害が起きたときに役立つ非常食。多くのメディアでは一般家庭向けの防災グッズなどを取り上げていますが、万一の備えが必要なのは高齢者施設においても変わりません。今回の記事は、高齢者施設における非常食をテーマにお届け。その重要性とともに、準備する際のポイントも解説します。ぜひ最後までお読みいただき、参考になさってください。
目次
高齢者施設における非常食の重要性
日本では地震、台風、豪雨、豪雪、火山の噴火などによる災害が頻発します。なかでも地震はかなり多く、マグニチュード6.0以上の地震回数は、全世界のうち日本が約20%を占めているのです(一般財団法人国土技術研究センター調べ)。災害の種類にかかわらず、奇跡的に被害がほとんどないケースもありますが、住民たちが避難を余儀なくされる状況も多いといえるでしょう。
災害が起きたとき、高齢者施設ではスタッフが情報収集や避難誘導を行います。状況にもよりますが、安全のため、あえて施設に留まることもあるでしょう。そんなとき、すぐ必要になるものの一つが非常食です。
介護が必要な高齢者の方々は、健康状態に不安があります。嚥下機能や咀嚼機能が低下していると、一般的な非常食が食べられない可能性も。ただでさえ災害という非日常的な状況に置かれ、まともに食事もできなくなれば、高齢者の方々は多大なストレスを抱えてしまいます。
思わぬトラブルを生まないためにも、高齢者施設は非常食をはじめとする防災グッズをしっかりと備えておくべきでしょう。続いて、高齢者向けに準備する非常食のポイントをまとめていきます。
高齢者向け非常食のポイント①噛みやすく、飲み込みやすい
前述したように、高齢者の多くは嚥下機能や咀嚼機能が低下している可能性があります。そのため、非常食で最も大事なのは「かみやすく、飲み込みやすい」こと。ここをクリアしていれば、まったく食べられないという事態を避けられるでしょう。本項目では、「かみやすく、飲み込みやすい」の基準となる2つの枠組みをご紹介します。
ユニバーサルデザインフード
日本介護食品協議会が介護食のために制定した「ユニバーサルデザインフード」の区分を参考にすると便利です。以下に、区分の詳細をまとめました。
【区分1】容易にかめる
かたいものや大きいものはやや食べづらいものの、普通に飲み込める人向けの食品です。具材が大きく、普通の食事とほぼ同じ見た目をしています。
かたさの目安(調理例):白米〜軟飯、焼き魚、厚焼き卵、やわらか肉じゃが
【区分2】歯ぐきでつぶせる
かたいものや大きいものが食べづらく、食材・料理によっては飲み込みづらい人向けの食品です。視覚的なおいしさを残すため、具材はある程度の大きさを残しています。
かたさの目安(調理例):軟飯〜全粥、煮魚、だし巻き卵、具材小さめやわらか肉じゃが
【区分3】舌でつぶせる
食材が細かい、もしくはやわらかければ食べることができ、水やお茶を飲み込みづらいことがある人向けの食品です。適度なとろみをつけることもあり、区分2より具材は小さく、さらにやわらかくなります。
かたさの目安(調理例):全粥、魚のほぐし煮(とろみあんかけ)、スクランブルエッグ、具材小さめさらにやわらか肉じゃが
【区分4】かまなくてよい
小さな固形物でも食べづらく、水やお茶が飲み込みづらい人向けの食品です。具材も含め、なめらかなペースト状やゼリー状に仕上げます。
かたさの目安(調理例):ペースト粥、白身魚の裏ごし、やわらかい茶碗蒸し(具なし)、ペースト肉じゃが
スマイルケア食
農林水産省が提唱する「スマイルケア食」の基準も、高齢者向けの非常食選びに役立ちます。
【青マーク】
嚥下・咀嚼機能には問題がなく、健康維持のために栄養補給が必要な人向けの食品です。
【黄マーク】
かみにくい人向けの食品です。5、4、3、2と区分があり、ユニバーサルデザインフードの区分1〜4と同じ基準になっています。
【赤マーク】
飲み込みづらい人向けの食品です。少しかめば飲み込める形状が2、口の中で少しつぶしてから飲み込める形状が1、そのまま飲み込める形状が0に区分されています。
高齢者向け非常食のポイント②栄養バランスが偏らない工夫
災害時の非常食は、お米やパンなどの炭水化物がメインになりやすいといわれています。高齢者が低栄養状態に陥った場合、特に心配されるのが「フレイル」と呼ばれる状態。日本語では「虚弱」や「老衰」を意味しており、加齢によって認知機能や運動機能などが低下している状態を指します。
極端に体重が減ったり、疲れやすくなったりするほか、歩く速度が遅くなるなどの症状が出現。精神的な面では、気力を失ってしまうこともあるようです。そのような状態が続くと、筋肉量が減少する「サルコペニア」、歩いたり立ち上がったりすることが難しくなる「ロコモティブシンドローム」などに発展してしまう可能性もあります。
深刻化すれば寝たきりになってしまうため、初期段階である「フレイル」を予防することがとても重要です。災害が起こると、いつも通りの生活に戻れるタイミングがわかりません。だからこそ、高齢者の方々には栄養バランスのとれた食事を提供し、健康でいてもらうことが大切なのです。
非常食は主食・主菜・副菜をそろえておくのが理想的。先ほどもお伝えした通り、非常食は炭水化物が多いため、たんぱく質、食物繊維などが含まれる食品を入れておくと安心でしょう。具体的には肉や魚、豆類の缶詰、お湯を注ぐだけのインスタントみそ汁やスープなどがおすすめです。また、複数の栄養が同時にとれる栄養補助食品も役立ちます。
高齢者向け非常食のポイント③おいしくて飽きずに食べられる
災害からの復旧が長引きそうな場合は、しばらく非常食を提供することになります。日常とまったく変わらずにやっていくのは難しいところですが、味の良さと献立のバリエーションをきちんと確保しておくと安心です。
高齢者の方々が非常食をおいしくないと感じれば、その後もなかなか口にしてくれないかもしれません。それに、ずっと献立が同じであれば、やはり飽きてしまうでしょう。災害時だからこそ、食事はいつも以上に大きな楽しみになります。そのことを意識しながら、非常食の準備を進めていくといいでしょう。
いきなり大量に準備するのではなく、まずは気になった非常食をいくつか準備してみてください。スタッフはもちろん、高齢者の方々にも試食してもらったり、要望を聞いたりすれば、災害時におけるトラブルも減らせるはずです。
また、メインの食事ばかりではなく、個人の好みにあわせたおやつや飲み物も準備しておきましょう。非常食が食べられなくても、自分が好きなものであれば問題なく食べられる場合があります。
ナリコマは災害時にも“安心”をお届けします
ナリコマでは、災害時も高齢者の方々に普段と変わらない食事を楽しんでもらえるよう、「できることを最大限に」というスタンスを貫いています。セントラルキッチンで調理したクックチル食品を自社で配送しているため、道路などの安全面に問題がなければ、いつも通りにお届け可能。2016年4月に発生した熊本地震では、ナリコマ未契約の施設さまに支援を行った実績もあります。
また、備蓄用には「ひまわり非常食」がおすすめ。栄養バランスを考慮した三日分の献立がそろっており、加熱せずそのまま食べられるのが魅力です。高齢者施設に最適な非常食をお探しの際には、ぜひ一度ナリコマにご相談ください。
クックチル活用の
「直営支援型」は
ナリコマに相談を!
急な給食委託会社の撤退を受け、さまざまな選択肢に悩む施設が増えています。人材不足や人件費の高騰といった社会課題があるなかで、すべてを委託会社に丸投げするにはリスクがあります。今後、コストを抑えつつ理想の厨房を運営していくために、クックチルを活用した「直営支援型」への切り替えを選択する施設が増加していくことでしょう。
「直営支援型について詳しく知りたい」「給食委託会社の撤退で悩んでいる」「ナリコマのサービスについて知りたい」という方はぜひご相談ください。
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