BCP(事業継続計画)策定は、すべての介護事業において完全義務化されています。策定の手順と重要なポイントは以下の通りです。
【策定の手順】
①基本方針の策定
②運用体制の決定
③中核事業の選定、復旧目標の設定
④想定されるリスクの整理と事前対策
⑤事業継続計画書の作成
⑥教育と訓練、計画の定期的な見直し
【策定のポイント】
●情報の収集と共有
●役割分担の確認
●優先すべき業務の確認
●研修・訓練と計画の見直し
●感染者発生時の対応
●感染症流行時における人手確保の体制
●平時における自然災害への備え
●自然災害発生時の対応
BCPを策定しない介護施設・事業では、利用者のケアが不十分になったり、介護報酬の減算措置がとられて収入源になったりするデメリットが生じます。しかし、BCP策定によって緊急時に適切な対応がとれるようになれば、利用者の安心感、ケア体制やコスト面の安定化につながるのです。もちろん、利用者や職員の安全が確保しやすくなるメリットもあります。BCPの重要性をしっかりと理解し、いざというときに強い介護施設・事業所づくりを進めましょう。
目次
介護事業におけるBCPの重要性

BCP(事業継続計画)とは
BCPはBusiness Continuity Planの略。緊急時も業務を継続できるようにしたり、業務が中断してもできるだけ早期に復旧させたりすることを目的とした事業継続計画を指します。一般的な防災計画は、身の安全を確保したり、物的被害を抑えたりすることが主な目的です。つまり、BCPは防災計画をベースとしたものですが、もう一歩踏み込んだ内容も盛り込まれています。
ここでいう緊急時というのは、自然災害やテロ、事故、感染症などによって大きな被害を受けた状況のこと。2024(令和6)年1月1日に発生した能登半島地震、2026(令和8)年7月28日に発生した熊本地震などは特に大きな被害を受けましたが、日本は地震だけでなく、津波、火山の噴火、台風、豪雨、豪雪も多発しています。こうした災害時は特に、少しでも早い復旧や復興が望まれるでしょう。だからこそ、BCPは非常に重要だと考えられるようになりました。
また、長期にわたって業務が中断されれば、顧客の信用を失うだけでなく、企業としての評価が下がってしまうかもしれません。BCPにはそのリスクを回避し、企業の価値を守るという役割もあります。
介護事業に対して完全義務化されたBCP策定
介護事業においては、2024(令和6)年の介護報酬改定によりBCP策定が完全義務化されました。前述したように、日本は自然災害が多く、いつ、どこで、誰が被害に遭ってもおかしくありません。その影響で介護施設・事業所の業務が滞ってしまうと、高齢者や要介護者の安全が脅かされる可能性が高まるのです。
BCP策定が義務化された背景の一つとして、高齢者や要介護者を支えるという社会的な役割があったでしょう。利用者はもちろんのこと、その家族にも安心してもらうためには、介護事業全体でBCPへの意識を強く持たなければならないのです。
BCP未策定の介護施設・事業所に対する減算措置
完全義務化されているBCP策定を行わない介護施設・事業所に対しては、介護報酬の減算措置がとられます。減算措置は収入減につながり、運営コストを圧迫するリスクも高まります。そういった面をみても、BCP策定は非常に重要といえるでしょう。
施設・居住系サービス……所定単位数の3%
- 特定施設入居者生活介護
- 介護予防特定施設入居者生活介護
- 地域密着型特定施設入居者生活介護
- 認知症対応型共同生活介護
- 介護予防認知症対応型共同生活介護
- 介護老人福祉施設
- 地域密着型介護老人福祉施設入居者生活介護
- 介護老人保健施設
- 介護医療院
施設・居住系に該当しない、その他のサービス……所定単位数の1%
- 訪問介護
- 訪問入浴介護
- 介護予防訪問入浴介護
- 訪問看護
- 介護予防訪問看護
- 訪問リハビリテーション
- 介護予防訪問リハビリテーション
- 定期巡回・随時対応型訪問介護看護
- 夜間対応型訪問介護
- 通所介護
- 地域密着型通所介護
- 認知症対応型通所介護
- 介護予防認知症対応型通所介護
- 通所リハビリテーション
- 介護予防通所リハビリテーション
- 療養通所介護
- 短期入所生活介護
- 介護予防短期入所生活介護
- 短期入所療養介護
- 介護予防短期入所療養介護
- 小規模多機能型居宅介護
- 介護予防小規模多機能型居宅介護
- 看護小規模多機能型居宅介護
- 福祉用具貸与
- 介護予防福祉用具貸与
- 居宅介護支援
- 介護予防支援
介護事業におけるBCP策定のポイントとは?

BCPは次のような手順で策定します。
①基本方針の策定
BCP策定の目標を明確にしておきます。「職員の安全を確保するため」「会社を存続するため」「人の命にかかわる重要業務を継続するため」など、さまざまな目標があります。
②運用体制の決定
緊急時における指揮者(リーダー)を設定します。各職員の役割分担や連絡網を整理し、まとめておきましょう。
③中核事業の選定、復旧目標の設定
重要な業務や優先すべき業務を選定し、目標復旧時間(RTO:Recovery Time Objective)などを設定します。
④想定されるリスクの整理と事前対策
自然災害や感染症などの発生によるリスクを挙げ、事業に与える影響を考察します。また、被害を最小限に抑えるための事前対策を立てます。
⑤事業継続計画書の作成
基本方針や運用体制、業務の対応手順、連絡先一覧などを「事業継続計画書」として文書化します。
⑥教育と訓練、計画の定期的な見直し
計画内容はすべての職員に共有し、教育や訓練を実施します。また、訓練時や定期的な見直しにおいて問題点が見つかった場合は、改善を重ねていきます。
BCP策定のポイントとは?
介護施設・事業所におけるBCP策定の重要な目的は、緊急時に業務やサービスが継続されること。そして、もう一つ大事なのは、利用者と職員の安全がきちんと確保できることです。厚生労働省は感染症と自然災害、それぞれのパターンにあわせたガイドラインを公開しています。本項目は、そのガイドラインに従い、介護事業におけるBCP策定のポイントをまとめてみました。
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BCP策定のポイント【感染症・自然災害に共通】 |
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情報の収集と共有 |
・正確な情報を集め、職員や利用者に共有できるようにする ・利用者の家族など、関係者の連絡先を把握しておく |
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役割分担の確認 |
・緊急時に意思決定を行う人、各業務の担当者などを決めておく |
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優先すべき業務の確認 |
・職員が少なくなったり、設備が使えなくなったりする状況を想定し、業務の優先順位を決めておく |
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研修・訓練と計画の見直し |
・BCPに関する研修や訓練を行い、緊急時でも職員全員が適切に動ける体制をつくる ・計画内容の見直しを定期的に行い、防災情報なども最新かどうか確認する |
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【感染症】 |
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感染者発生時の対応 |
・感染者が確認された場合の対応を決めておくことで、ほかの職員や利用者への感染拡大を防ぐ |
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人手確保の体制 |
・感染した職員は業務を行うことが出来ず、利用者のケアが不十分になる可能性があるため、どのように人手不足を補うのか決めておく ・関連する施設・事業者からヘルプを呼んだり、自治体を頼ったりする方法がある |
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【自然災害】 |
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平時における備え |
・地震などで倒れやすい機器や什器を固定する ・パソコンなどに含まれるデータのバックアップをとる |
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自然災害発生時の対応 |
・利用者と職員の安全確保のため、建物や設備などの被害状況を把握する ・復旧に向けてどのように行動するのか、ルールを決めておく ・公共交通機関や道路が使えなくなり、通勤できない職員が出ることも想定しておく |
BCP策定は介護事業にとってのメリットが大きい

介護施設・事業所でBCPの策定をすると、主要な業務やサービスが継続できること以外にも次のようなメリットがあります。
①利用者や職員の安全が保たれ、信頼感も高まる
安全配慮義務を果たし、その場にいる全員の命を守ることにつながります。また、利用者と職員だけでなく、関係者や取引先、地域における信頼感も高まります。
②業務改善のきっかけになる
BCP策定にはまず、事業全体の見直しが必要です。これまで気付かなかった、もしくは未対応だった改善点が洗い出され、働きやすい環境も整うでしょう。労働環境がより良くなれば、職員の離職を防ぐ効果も期待できます。
③ワクチンの特定接種対象になる
新型インフルエンザ等対策特別措置法第28条第1項第1号の規定に従い、特定接種対象事業者として認められます。優先的なワクチン接種によって安全性が高くなり、職員や利用者にも安心感が生まれます。ただし、対象となる主な施設・事業所は、以下の通りです。また、「要介護3以上の利用者がいること」も基準として挙げられています。
- 介護保険施設(介護老人福祉施設、介護老人保健施設)
- 指定居宅サービス事業(訪問介護、訪問入浴介護、特定施設入居者生活介護)
- 指定地域密着型サービス(定期巡回・随時対応型訪問介護看護、夜間対応型訪問介護、認知症対応型共同生活介護、地域密着型特定施設入居者生活介護、地域密着型介護老人福祉施設)
- 老人福祉施設(養護老人ホーム、軽費老人ホーム)
- 有料老人ホーム(特定施設入居者生活介護を除く)
④税制優遇や補助金、融資などが受けられる
中小規模の介護施設・事業者であれば、2027(令和9)年3月31日までに「事業継続力強化計画/連携事業継続力強化計画」の認定を受けることでメリットが生まれます。認定後一年以内に特定の設備を導入することが条件となりますが、中小企業防災・減災投資促進税制に従い、特別償却16%が適用されます。
また、BCP実践促進助成金などの補助金を受け取れる可能性もあります。低金利で融資を受けられる場合もあるため、資金面での不安も軽減されるでしょう。事業形態や自治体によって異なるケースも多いため、事前に詳しく確認しておくと安心です。
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