近年では急速に物価上昇が進んでいますが、同時に、各業界では賃上げの動きもみられるようになっています。病院や介護福祉施設はかねてから運営が難しく、赤字になりやすいといわれてきました。しかし、賃金上昇や物価上昇の影響は大きく、依然として厳しい状況は続いているようです。
本記事では、賃金上昇と物価上昇が進む現状を解説し、病院や介護福祉施設が直面している赤字問題やコスト削減のポイントなどについてお伝えします。ぜひ最後までお読みいただき、参考になさってください。
目次
賃金上昇と物価上昇が進む現状
はじめに、賃金上昇と物価上昇が進む現状を詳しくみていきましょう。

33年ぶり!2024年の平均賃上げ率が5%台へ
政府は以前より経済界に対して賃上げを要請してきましたが、1991年以降の平均賃上げ率は長らく低水準が続いていました。2020年には新型コロナウイルスが世界各地で蔓延。感染対策のため経済活動が鈍化し、賃金上昇への道のりはさらに険しくなりました。しかし、2024年には状況が大きく変化。33年ぶりに平均賃上げ率が5%台を記録したのです。こうした賃金上昇の流れには、次のような背景があります。
賃金上昇の背景①賃上げ促進税制の導入
2022年4月1日、政府は賃上げ促進税制を導入しました。その内容を簡単に説明すると「青色申告書を提出する企業・個人事業主が従業員の賃金を上げた場合、税額控除が適用される」という制度。導入当初は資本金や従業員数が多い大企業向け、それ以外に該当する中小企業向けの二つに区分されました。
令和6 (2024)年度税制改正では、大企業と中小企業の中間に当たる中堅企業の枠を新たに設けており、より活用しやすい環境が整えられています。税額控除が適用されるには、制度内で定められた基準をクリアしなければなりません。とはいえ、税金面で優遇されるメリットは大きく、賃金上昇のきっかけになったと考えられます。
賃金上昇の背景②人手不足の慢性化
総務省統計局が公開している「労働力調査(2024年平均結果)」では、全体の就業率が前年より増加しているものの、製造業、農業・林業、建設業などは減少傾向にあり、業界によって差が出ているようです。
現在の日本は少子化が進み、今後は高齢者が増加していくとみられています。つまり、将来的に若い労働者人口は減るということ。このままでは、どの業界も人手不足の慢性化は避けられません。賃上げを実施する企業が増えたのは、人手確保のためともいえるでしょう。
賃金上昇の背景③物価上昇への対策
物価上昇の傾向が強まったのは、新型コロナウイルスが大流行した2020年ごろから。先に述べた通り、経済活動が鈍化したことで需要と供給のバランスも崩れてしまったのです。2022年にはロシアのウクライナ侵攻がはじまり、エネルギー価格や原材料費などが高騰。さらに円安も続いており、輸入品の価格は大きく上昇しています。
株式会社帝国データバンクが実施した「2024年度の賃金動向に関する企業の意識調査」では、企業が賃金を見直した理由が挙げられています。その結果によると、人手不足を補うことと従業員の生活を支えることに続き、物価上昇も大きなきっかけになっているようです。
病院や介護福祉施設が赤字になる理由
本項目では、独立行政法人福祉医療機構が公開しているデータをもとに、近年における病院や介護福祉施設の赤字問題を解説します。

病院や医療法人の赤字について
一般病院や病院主体の医療法人では、新型コロナウイルスの影響で2020年度の赤字率が増加。2021年度と2022年度はコロナ関連の補助金があったため、赤字率はいったん減少傾向になりました。しかし、補助金の縮小・終了が決定した2023年度の赤字率は、2020年以前を上回る結果に。数値上では一般病院が51.0%、病院主体の医療法人が42.8%となっています。
このように赤字が多くなる要因の一つは、二年ごとに行われる診療報酬改定。人件費や設備費など、あらゆる費用が高騰しているにもかかわらず、医療行為で得られる収益は減っているのです。さらに、少子高齢化によって在宅医療が増えたり、外来・入院患者の数が減ったりしていることも厳しい経営状況の要因となっています。
介護福祉施設の赤字について
社会福祉法人全体を対象とした2023年度の赤字率は、前年度の35.3%より少ない30.5%。介護主体の社会福祉法人のみで集計された赤字率は2022年度が46.6%、2023年度が40.0%となっています。ちなみに、特別養護老人ホームのみを集計した赤字率も減少傾向。従来型・ユニット型それぞれの数値は2022年度が47.8%・34.4%、2023年度が41.7%・30.0%となっています。
一見すると赤字率は減少しており、経営状況が改善されているような印象を受けるかもしれませんが、実は2022年における介護事業所の倒産は前年比76.5%に増加していました。倒産の主な要因は物価上昇や人手不足のほか、実際にかかるコストに対して介護報酬改定が間に合っていないという状況もあるようです。
一方、倒産を免れた事業所や施設は、政府による介護職員処遇改善支援補助金や福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金、電気・ガス価格激変緩和対策事業などの恩恵があったと考えられます。しかしながら、赤字率は高水準で推移しているのです。今後も賃金上昇や物価上昇が続くのであれば、さまざまな課題が生まれ、経営もますます難しくなるといえるでしょう。
給食運営の見直しはコスト削減になる?
前述したように、病院や介護福祉施設の赤字率は高水準のまま推移しています。一般企業のケースなら、「コストが増えた分は価格転嫁して赤字を回避する」という対策を取ることができるでしょう。ところが、病院や介護福祉施設が受け取る報酬のほとんどは公定価格に当たるため、価格転嫁ができないのです。そのため、経営状況を安定させるには各コストの見直しが必須となります。

医薬・材料費は一般的な消耗品のほか、レントゲンフィルムや聴診器など医療行為に必要なものも含まれています。コスト削減のポイントになり得ますが、医療や介護の質を落とさないことが重要です。また、機器や設備、メンテナンスなどの費用を含む減価償却費も同様のことがいえます。人件費は職員のモチベーション低下につながるため、基本的には削減対象外と考えるべきでしょう。
現実的におすすめできる見直しのポイントは、外部委託費やその他の諸費用。清掃・給食・警備・検査など幅広い業務を外部に委託している場合は、見直せるポイントが多いといえます。その他の諸費用は車両・機器等のレンタル費、通信費、広告費など多岐にわたりますが、少しずつでもコストを抑えられる可能性が高いでしょう。
その中でも、給食は直営や委託、配食サービスなど、運営方法の選択肢が多い部門です。病院や介護福祉施設の規模や方針にあわせて最適化することで、大幅なコスト削減ができるかもしれません。
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