近年の日本は高齢化が急速に進んでおり、健康管理に対する意識も高まっています。今回のテーマは、高齢者が陥りやすいといわれる「低栄養」です。低栄養が心身にもたらす影響、介護福祉施設における栄養ケアの現状、低栄養防止のための対応メニューなどをまとめて解説します。
目次
低栄養から起こる心身の不調
低栄養は、体に必要とされる栄養素が不足し、健康を維持するのが難しくなっている状態のこと。生活習慣や環境などによりますが、若者から高齢者まで、誰でも低栄養になる可能性があります。本項目では、高齢者が低栄養状態に陥った場合の影響についてまとめてみました。
体重が大きく減少する
体重減少率が1カ月以内に3%以上、3カ月以内に5%以上、6カ月以内に7.5%以上となる場合、低栄養とみなされます。また、6カ月以内に2〜3kg、もしくは3%以上の体重減少があった場合も要注意です。BMI値でみると、高齢者は20以下であれば低栄養の可能性が高いと考えられます。さらに、18.5以下は低体重に該当し、死亡リスクも高まります。
筋肉量や筋力が低下し、疲れやすくなる
たんぱく質は、体を動かすための筋肉をつくる栄養素です。低栄養状態に陥ると、体は筋肉の中にあるたんぱく質を使って動こうとします。その結果、筋肉量や筋力が低下し、疲れやすくなってしまうのです。また、ちょっとした動作においても転倒するリスクが高くなります。転倒して大きなけがをすれば入院し、寝たきりになってしまうかもしれません。
免疫力が低下し、感染症にかかりやすくなる
低栄養状態が続くと、免疫力の低下につながります。風邪などの感染症にかかりやすくなり、治りにくくなります。高齢者は肺炎を発症し、重篤化することもあるため、特に注意が必要といえるでしょう。また、外傷を負った際にも治りにくくなってしまうようです。

血清アルブミン値が低下する
低栄養状態になると、血液に含まれるアルブミンの濃度(血清アルブミン値)も下がってしまいます。アルブミンは血管中の水分を保持する役割を担うたんぱく質の一種。濃度が下がると、血管の外に水分が出ていってしまうため、全身のむくみが起こりやすくなります。また、体内に栄養や代謝物質が行き渡らず、免疫力の低下をはじめ、さまざまな不調が生じる可能性もあります。
認知機能が低下し、活動量が減る
低栄養は脳に必要な栄養が送られなくなるため、認知機能の低下を招きます。日常生活において意欲がなくなったり、買い物や趣味のために外出することも面倒になったりして、活動量が減ってしまうのです。動かなければ食欲も落ち、食べなくなることで低栄養状態がより深刻になります。高齢者にとって、こうした悪循環は認知症の進行が早まったり、要介護に移行するリスクが高まったりする要因になります。
介護福祉施設では低栄養防止策を強化
高齢者の栄養摂取状況
厚生労働省が令和5年11月に実施した「国民健康・栄養調査」の結果によると、低栄養傾向にある65歳以上の高齢者は全体の17.6%です。この数値は前述したBMI値20以下を基準としており、男性は12.2%、女性は22.5%となっています。これを年齢階級別にみると、次のようになります。
|
BMI20以下の割合 (年齢階級別) |
男性 |
女性 |
|
65〜69歳 |
7.8% |
23.5% |
|
70〜74歳 |
8.7% |
22.0% |
|
75〜79歳 |
11.2% |
22.0% |
|
80〜84歳 |
18.2% |
20.5% |
|
85歳以上 |
22.8% |
24.8% |
また、バランスよく栄養をとるには、基本的に主食・主菜・副菜の組み合わせた食事がいいといわれています。この組み合わせで一日2回以上の食事をしている高齢者の割合は、60〜69歳男性48.4%/女性52.7%、70歳以上男性61.5%/女性60.6%です。先にお伝えした低栄養傾向にある高齢者の割合も踏まえると、低栄養を防ぐにはきちんとした食生活が重要といえるでしょう。
介護福祉施設における栄養ケア
介護福祉施設において欠かせない取り組みの一つが、栄養士もしくは管理栄養士による栄養ケア・マネジメントです。基本的には、以下に記す①〜⑤を行うことで高齢者の栄養状態を管理します。
①栄養スクリーニング
身体測定や食事摂取量などのデータ、複数のチェック項目をもとに、個別で栄養状態を評価します。介護福祉施設では、高齢者を対象としたツール「MNA-SF(Mini Nutritional Assessment Short-Form)」を用いて判定することが多いようです。
↓
②栄養アセスメント
スクリーニングで低栄養、もしくはそのリスクがあると判定された場合、詳細を明らかにし、食生活の改善点や課題をまとめていきます。
↓
③栄養ケア計画の策定
栄養ケア計画では、スムーズな多職種連携が重要です。栄養士・管理栄養士を中心に、看護師、介護職員、医師なども交えて低栄養改善の計画を立てます。具体的な目標や達成方法をまとめ、本人や家族に説明後、同意のサインをもらいます。
↓
④実施とモニタリング
本人や家族の同意を得たら、栄養ケア計画の内容を実施します。食事量や体重の変化、血液検査の結果などをモニタリングし、栄養状態を把握します。
↓
⑤総合的な評価
栄養ケアの効果、課題の改善状況、目標達成状況などを確認し、計画の内容や実施方法が適切だったかどうか、総合的に評価します。その評価に従い、栄養ケア計画の継続、修正、終了などを決断します。

低栄養防止・改善にかかわる介護報酬の加算
栄養管理にかかわる介護報酬の加算は、主に以下のような項目が挙げられます。各項目の説明は簡単にまとめていますので、詳細については別途ご確認ください。
◆栄養改善加算
低栄養、もしくはそのリスクがある利用者に対して個別で栄養ケア計画を立て、栄養相談などの栄養管理を行います。また、咀嚼機能や嚥下機能、食形態への配慮も重要とされています。
◆栄養アセスメント加算
利用者の栄養状態などの情報を、厚生労働省が運用する科学的介護情報システム(LIFE)にて提出し、フィードバックを受けます。栄養管理のために必要な情報を有効活用することが重視されています。
◆栄養マネジメント強化加算
令和3年度の介護報酬改定で低栄養リスク改善加算が廃止され、代わりに新設された加算です。低栄養のリスクが低い利用者も含め、ミールラウンドや栄養状態の評価を定期的に行います。科学的介護情報システム(LIFE)を通じた情報の提供や活用も重要です。
上記以外にも経口維持加算や経口移行加算、口腔・栄養スクリーニング加算など、さまざまな種類があり、算定できる可能性があります。施設やサービスの種類、実施状況など、規定の算定条件が細かく決まっているため、事前にしっかりと把握しておかなければなりません。こうした加算制度は、介護福祉施設において低栄養防止・改善の取り組みが重視されていることの表れともいえるでしょう。
低栄養防止を考慮した献立の具体例
高齢者の低栄養を防ぐ対応メニューのポイントは、「高たんぱく」と「高エネルギー」です。前述したように、たんぱく質が不足すると筋肉量や筋力の低下につながります。毎日の食事では、たんぱく質が豊富な肉・魚・大豆・卵・乳製品、エネルギーのもとになる米・パン・麺類・イモ類などを積極的に取り入れるといいでしょう。具体的なメニュー例として、次のようなものが挙げられます。
<主食>
親子丼、二色そぼろ丼、サバ缶の炊き込みごはん、しらすのせチーズトースト など
<主菜>
豆腐ハンバーグ、鶏むね肉とキャベツのだし蒸し、鶏ささみの酢豚風、豚肉のチーズピカタ、ブリ大根、サケのホイル包み焼き など
<副菜>
だし巻き卵、ツナ入りマカロニサラダ、鶏むね肉と枝豆のサラダ、おから煮 など
<汁物>
豆乳スープ、厚揚げの味噌汁、油揚げ入り豚汁、中華風たまごスープ など

また、いつものメニューを少しだけアレンジするのもおすすめです。「食パンにスライスチーズや目玉焼きをのせる」「飲み物をお茶から牛乳に変更する」「食後のフルーツにヨーグルトをかける」など、ちょっとした工夫をするだけでも、たんぱく質とエネルギーを補うことができます。
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