日本は将来的に高齢者が激増するといわれています。そんな高齢化社会を支える医療・介護・福祉のあり方として推進されているのが「地域包括ケア」というシステムです。本記事では、地域包括ケアの基本的な仕組みについて詳しくお伝えします。また、その中で重要視される多職種連携や、今後の課題や対策についても解説。ぜひ最後までお読みください。
目次
地域包括ケアとは
冒頭で少しお伝えしましたが、日本は高齢化社会が急速に進んでいます。内閣府が公表した「令和6年版 高齢社会白書」によると、令和5(2023)年10月1日時点における65歳以上の人口は総人口の29.1%。この割合は今後も増加し、令和22(2040)年には34.8%、令和52(2070)年には38.7%になるとみられています。その一方、出生数は減少しており、高齢化と同時に少子化も進んでいるのが現状です。
ところが、このままでは人手不足の深刻化、社会保障制度の破綻、単身高齢者の孤立といった重大な問題が生じるといわれています。特に、高齢者からのニーズが高い医療・介護・福祉業界は、従来通りの対応ができなくなる可能性も指摘されています。そういった問題に対処するために厚生労働省が医療・介護・福祉のあり方を見直し、新たに提唱したのが地域包括ケアなのです。
地域包括ケアで求められているのは、「医療や介護が必要な状態になっても、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した生活を続けることができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制」です。これを実現するため、自治体、病院、介護福祉施設などが連携するシステムの構築が必要とされています。
ただし、そのシステムをうまく機能させるには、次に挙げる「自助」「互助」「共助」「公助」も重要です。
・自助:高齢者が自発的に生活を管理し、問題を解決すること
・互助:家族や友人、趣味の仲間などでお互いに助け合うこと
・共助:介護保険や年金など、被保険者が費用を負担する社会保障制度のこと
・公助:公金によって賄われる福祉事業や生活支援のこと
上記からわかるように、多角的な視点でサポートを行うのが地域包括ケアの基本となります。
高齢者の希望を叶える役割も
内閣府が実施した「令和2年度 第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果」では、「身体機能が低下して車いすや介助者が必要になった場合、自宅に留まりたいか、どこかへ引っ越したいか」という問いかけがありました。
60歳以上の調査対象者1,367人の回答を見ると、「現在のまま、自宅に留まりたい」が37.5%、「改築の上、自宅に留まりたい」が21.6%。全体のうち60%近くが自宅で過ごすことを希望しています。地域包括ケアには、こうした高齢者の希望も叶える役割もあるのです。
地域包括ケアを支える5つの柱
地域包括ケアを支える柱となるのは「介護」「医療」「予防」「住まい」「生活支援」という5つの要素です。これらが相互的に関わり、適切な連携をとることで、高齢者の健やかな生活をサポートできるようになります。各要素について、もう少し詳しくみていきましょう。
①介護
「介護」には2種類のサービスがあります。一つは、自宅で過ごす高齢者を支援する訪問看護や訪問介護などの在宅系介護サービス。もう一つは、特別養護老人ホームや介護療養型医療施設、小規模多機能型居宅介護などの施設・居住系介護サービスです。高齢者の状態や環境にあわせてサービスを選び、利用することができます。
②医療
「医療」は、普段の健康管理から緊急時の診察までカバーします。日常的な診察を行うかかりつけ医や地域の連携病院、急な疾患や大怪我などの診察を行う急性期病院、リハビリテーション専門の病院などがあります。各医療機関の連携がとれていれば、在宅と入院の切り替えもスムーズです。
③予防
「予防」は、要介護状態にならないための対策をとり、健やかな心身を維持することが目的です。自治体などが運営する介護予防サービスのほか、ボランティア団体による見守り活動なども含まれます。高齢者自身が地域交流・社会参加に加わることも予防の一環として考えられており、要介護者の支援を手伝うケースもあります。
④住まい
「住まい」には自宅以外に介護サービスを提供する施設なども含まれ、高齢者が生活するスペース全体を指します。プライバシーや尊厳を守りつつ、本人の希望や経済力に適合した住まいを確保することが重要です。賃貸契約を行う場合は、保証人の手配や各種手続きも支援します。
⑤生活支援
「生活支援」は、要介護と認定された高齢者の生活に対する支援を指します。専門的な知識は不要ですが、高齢者が安心・安全に過ごせるよう、買い物支援や見守りをすることが大切です。自治体やNPO法人はもちろん、ボランティア団体や地域住民も取り組みやすい部分だといえます。
地域包括ケアにおける多職種連携の重要性
多職種連携は、医療・介護・福祉など分野の異なる専門職が協力体制を築くことです。専門的な知識やスキルを発揮しながら連携をとることで、業務全体の効率がアップ。さらに、医療や介護、各種サービスの質を向上させる目的があります。
高齢者を多角的にサポートする地域包括ケアのシステムでは、この多職種連携が特に重要と考えられています。連携がスムーズになれば、良質かつ適切なケアができるのはもちろん、高齢者やその家族に安心感を与えるというメリットもあるのです。
また、医療・介護・福祉関連の業務に携わる人たちにとっても、プラスになることがあります。自分にはなじみがない職種の人とコミュニケーションをとったり、意見交換を行ったりすることで、新たな成長が期待できるでしょう。
地域包括ケアの課題と対策
最後に、地域包括ケアにおける今後の課題と対策をまとめました。
課題①地域包括ケアの認知度が低い
現在、地域包括ケアの認知度は決して高いとはいえません。システムをしっかりと機能させるには、医療・介護・福祉関係の従事者以外に、地域住民の理解や協力も必要でしょう。つまり、地域包括ケアの仕組みを国民全員が知ることで、よりいっそう機能しやすくなるということ。正しく理解してもらうためにも、運用元である自治体や関連施設などが率先して広めていくことが重要なのです。
課題②地域による格差が生じやすい
地域包括ケアのシステムを運用するのは自治体です。だからこそ、自治体によっては財源が確保できなかったり、サポート体制が十分に整わなかったりすることもあります。この場合、高齢者とその家族がより快適に暮らせる地域へ移住する可能性があり、急激に過疎化する地域が出てくるかもしれません。対策として、公的支援の範囲拡大、民間企業との連携などが考えられます。また、システム運用の参考になるよう、自治体同士で取り組みの事例を共有することも大切です。
課題③連携のための人材が足りない
地域包括ケアのシステムには、各分野の垣根を越え、連携しやすい体制を整える人材が必要です。しかし、医療・介護・福祉の現場はもともと人手が集まりにくい傾向にあります。積極的に採用や育成を進めていくのはもちろん、高齢者を再雇用して人材不足を解消するのも対策の一つです。高齢者の雇用は、前述した介護予防の効果も期待できます。
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