高齢者になると健康上の問題が目立つようになります。当然個人差はありますが、健康状態を左右する食事の困りごとはいち早く解決したいものでしょう。「若い頃と同じように食べられなくなった」「食欲がなくなってきた」といった声は、いつの時代も聞こえてきます。
本記事で取り上げるのは、しっかり食べているのに体重が減るという「やせ(低体重)」の問題。その体重減少には、次のような背景があることも考えられます。
◆加齢で筋肉量が減少したことにより、食べる量が減っている
◆糖尿病や悪性腫瘍(がん)などの大きな病気にかかっている
◆一人暮らしなどのストレス(孤独感)が食生活の乱れに影響している
高齢者の「やせ」は要介護の一歩手前に当たるフレイルへ移行するケースも多く、「量が少なくても十分な栄養がとれる=少量高栄養」の食事が推奨されています。食生活の基本は一汁三菜ですが、少量高栄養に近づけるためには、以下に挙げる三つのポイントも重要です。
①カロリーや栄養価が高い食材を選ぶ
②一日に食べる回数を増やす
③医薬部外品や栄養補助食品を活用する
医療機関や介護施設では栄養スクリーニング、栄養アセスメントの実施が欠かせません。体重、食事摂取量、喫食率などの数値が下がってきたら要注意です。摂食機能が低下している場合は食形態の変更も視野に入れ、細やかな栄養ケアを行いましょう。
目次
高齢者の体重が減少する理由

一般的に、体が必要とするカロリーを十分に摂取できない場合、体重は自然と減少していきます。カロリー不足から体重が減少してしまう原因の多くは、病気による食欲減退や消化器系の問題などが挙げられます。
ところが、高齢者の場合は「加齢により食が細くなった」ということも考えられるのです。これといった持病もなく健やかな毎日を過ごしていても、自身の若い頃と比べるとあまり食べなくなり体重も減った、と実感している方は多いかもしれません。
高齢者の食が細くなってしまう理由は、大きく分けて「身体的な理由」「精神的な理由」「社会的・経済的な理由」「医学的な理由」の4つがあります。それぞれの理由について細かくみていきましょう。
①身体的な理由
唾液の分泌量が減ったり、味覚や嗅覚が衰えたりするほか、食べ物を飲み込むための嚥下機能がスムーズに働かなくなることもあります。また、消化管運動機能が低下する傾向も強くなります。その結果、食欲が抑えられてしまうのです。
②精神的な理由
加齢によって不安感や抑うつ、認知症など、精神的・神経的なストレスが生じやすくなることがあります。そのストレスの影響で、食欲が急激に落ちてしまいます。
③社会的・経済的な理由
一緒に食卓を囲む家族や同居人がいない一人暮らしをしていると、食欲減退を引き起こすことがあります。経済的な面をみると、極端な節約生活をしている場合もあります。どちらにしても、自然と食べる量が少なくなってしまいます。
④医学的な理由
持病がある場合、病気そのもののストレスだけでなく、投与された薬の作用が関係しているかもしれません。また、厳しい食事療法を実践している方であれば、それが体重減少につながることもあります。
食べているのになぜ体重が減るの?

前述したように、高齢者の体重減少はさまざまな理由によって食欲が落ち、食べる量が減ってしまうことからはじまります。ただ、高齢者といっても全員が同じような状態にあるわけではありません。なかには、しっかり食べている自覚がある方もいらっしゃるでしょう。しかし、その一方で、食べているはずなのに体重が大きく減少してしまう「やせ」の問題も浮上しています。本項目では、その詳しい原因について解説します。
筋肉量が減少している
筋肉量は、消費カロリーと深い関わりがあります。加齢による筋肉量の減少は、男女ともに起こること。近年では、サルコペニア(筋肉の衰え)という医学用語も使われるようになりました。
65歳以上になると、若い頃と比べて10パーセントほど筋肉量が少なくなるという研究結果があります。高齢者は自然と筋肉量が減ってしまうため、消費カロリーも少なくなるのです。
つまり、少し食べれば活動できるようになるということ。しっかり食べているつもりでも、実際の量は多くない……そんな状況から、体重減少につながってしまうのです。
何らかの病気にかかっている
持病がない高齢者は、わざわざ病院に通う必要がありません。体重減少の陰に病気が隠れている可能性もあります。例えば、体重減少と同時に食欲減退や下痢といった症状があれば、消化器系の病気にかかっているかもしれないのです。
また、糖尿病は食事に含まれる糖をエネルギーに変えるのが難しくなり、体内のたんぱく質や脂肪などをエネルギーとして使いはじめます。特徴として、急激な体重減少が多くみられるそうです。このほか、日本人に多い疾患のひとつである悪性腫瘍(がん)も筋肉量が減ってしまうため、体重減少を引き起こします。
無意識のうちにストレスを感じている
前の項目で挙げた社会的な理由(③)の繰り返しになりますが、一人暮らしの高齢者は社会的に孤立しがちです。知らず知らずのうちに感じる孤独感がストレスとなり、食べる量が減ってしまいます。
このように、高齢者は自覚症状があまりないまま、食べているのに体重が減るという「やせ」の状態に陥りやすくなるのです。
低体重はフレイルや要介護に移行する危険性も

「やせ」の状態は、高齢者にどのような影響を与えるのでしょうか。高齢者が今まで通りの日常生活を送れなくなり、要介護の状態に近づくことをフレイルといいます。厚生労働省では、高齢者が長く健康で過ごしていくためにはフレイルの予防が重要だと提言しています。65歳以上の要支援・要介護認定者は増加傾向にあります。平成26(2014)年度は591.8万人でしたが、令和5(2023)年度は695.2万人となっており、約10年間で100万人以上も増加しています。高齢化が進む近年の状況を考慮すると、要支援・要介護に認定される人はさらに増えると考えられるでしょう。
体重減少が進んで「やせ」になった高齢者の場合、まず懸念されるのが体力や免疫力の著しい低下です。筋肉量が減ってすぐに疲れるため寝たきりになりやすく、ウイルスや細菌に感染しやすくなります。加えて筋肉や骨も衰えるため、食べ物をかむ力や飲み込む力がなくなったり、転んで骨折しやすくなったりすることも。そしてうまく食事ができなくなれば十分な栄養をとることができず、むくみや腹水が起こるリスクもぐんと高まります。
つまり、「やせ」は高齢者にとって非常に危険なことなのです。フレイルを防ぐためにも、普段から体重減少を抑えられるような生活習慣を意識したほうが良いでしょう。具体的には、無理のない範囲でおこなう軽い運動、栄養バランスのとれた食事、食欲がわく生活環境などが挙げられます。
少量高栄養の食事をとるためには

「やせ」の状態もしくはそれに近い状態に陥った高齢者は、さまざまなリスクを抱えてしまいます。先ほど述べたように、体重減少を抑える基本的な対策は生活習慣を見直すこと。特に、食生活においては少量高栄養の食事を意識するのがおすすめです。古くからいわれてきたことですが、健康的な食事の基本は一汁三菜。その中で少量高栄養を実現するには、いくつかのポイントがあります。
①カロリー、栄養価が高い食材を選ぶ
次に挙げる食材はカロリーや栄養価が高く、食事量が少ない方のケアに適しています。なじみのある料理や飲み物に足したり、似たような食材を入れ替えたりするといいでしょう。
- ナッツ類(アーモンド、ピスタチオなど)
- 乳製品(チーズ、ヨーグルトなど)
- 大豆の加工食品(納豆、きな粉など)
②一日に食べる回数を増やす
通常の食生活は一日三食を基本としていますが、一度にたくさん食べられない方であれば、食事量が減ってしまいます。食べる回数を増やす「分食」を行うことで、一日当たり全体の食事量を増やすことができます。
③医薬部外品や栄養補助食品を活用する
どうしても食事量が増やせない場合は、食事以外でカロリーや栄養をとることも重要です。高齢者に不足しがちな食物繊維やたんぱく質などは、医薬部外品、栄養補助食品を取り入れると手軽に摂取することができます。
このほか、食材の栄養価を損なわない調理方法、口腔内や胃腸に負担が少ない食形態に変更するのも効果的です。
食生活の改善ポイントについては、食事摂取基準(2020年版)に基づいた厚生労働省発行のパンフレット「食べて元気にフレイル予防」もぜひご覧ください。
医療機関・介護施設では多職種連携による観察が重要

病院などの医療機関・介護施設において、高齢者の「やせ」や低栄養を適切にケアするには、栄養スクリーニングや栄養アセスメントが欠かせません。特に重視すべきは、次のような項目です。
- 定期的な体重測定とBMI・減少率
- 毎日の食事摂取量と喫食率
- 口腔環境や摂食機能
- 新たな疾患の可能性
ここまでお伝えしてきたことからわかるように、体重や食事摂取量の急激な減少は、早期ケアが必要なサインです。また、口腔環境を整えることは、摂取機能を維持・向上させます。歯の治療や義歯の調整、嚥下訓練など、個別で必要なケアをきちんと見極めることも大切です。
こうした対応には、医師、看護師、介護士、管理栄養士、ケアマネジャーをはじめ、治療やケアにかかわる全スタッフの連携が求められます。各職種の専門的な知識や技術、経験を最大限に生かす連携体制を築くことが、結果的に最適・最良のケアへとつながるのです。
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