2026年の10月から12月にかけて、都道府県ごとに順次、最低賃金の引き上げが行われます。介護業界では、賃金改善による介護職員の働きやすさの向上が期待される一方で、人件費増による赤字リスクや人手不足がさらに進む可能性などの懸念もあります。
この記事では、最低賃金の引き上げが介護業界にもたらすメリットとデメリットを整理しながら、介護業界や厨房業務の深刻な人手不足への対応策をまとめました。人件費増や人手不足の課題解決に役立つ厨房改革のヒントもご紹介しますので、ぜひご参考ください。
目次
介護業界の最低賃金と給与状況
まずは、2026年度の最低賃金引き上げ状況や、介護業界の近年の給与状況を解説します。

最低賃金の引き上げとこれまでの推移
2026年の10月から12月にかけて、全国の各地域ごとに最低賃金が引き上げられます。地域によって異なりますが、最低賃金時間額・引き上げ額・引き上げ率は下記の範囲です。
- 最低賃金時間額:1,085円(宮崎県)~1,280円(東京都)
- 引き上げ額:54円~65円
- 引き上げ率:4.4%~6.3%
また、2026年度の最低賃金の全国加重平均は下記の値です。
- 加重平均時間額:1,177円
- 引き上げ額:+56円
- 引き上げ率:5.0%
1978年度から2025年度の期間における最低賃金(全国加重平均)の推移では、2025年度の引き上げ額の66円が時間額として過去最高となっています。時間額における引き上げ率の過去最高は1980年度の6.9%ですが、1981年度以降では2025年度の6.3%が最高値です。また2026年度も、時間額の引き上げ額は2025年度に次いで過去2番目に高く、ここ数年の大幅な改定により、介護業界を含むさまざまな現場に大きな影響を与えることが考えられます。
介護業界の給与状況
先述した最低賃金(全国加重平均)の推移による近年の動向では、2021年度から2025年度にかけて約3%〜約6%の引き上げ率となっており、年々増加傾向にありました。また、「令和6年度介護従事者処遇状況等調査結果」による、介護職員等処遇改善加算I〜Vを取得(届出)している事業所における平均基本給等の2023年と2024年の比較において、介護職員(月給・常勤)は11,130円の増額が見られます。
下記は、同調査結果より、介護職員に加えて、厨房業務に関係する調理員と管理栄養士の給与額を比較した表です。
|
職種 |
平均基本給等 |
平均給与額 |
||
|
2024年 |
2023年 |
2024年 |
2023年 |
|
|
介護職員 |
253,810円 |
242,680円 |
338,200円 |
324,240円 |
|
調理員 |
212,250円 |
203,790円 |
272,240円 |
260,140円 |
|
管理栄養士・栄養士 |
250,240円 |
242,590円 |
323,810円 |
311,810円 |

最低賃金を支払えないとどうなる?
最低賃金の対象となるのは、毎月支払われる基本的な賃金で、基本給と諸手当です。ただし諸手当の中でも、通勤手当や家族手当などは対象にならないため注意しましょう。また、賞与や時間外割増賃金なども対象外です。
仮に、両者の合意の元に最低賃金を下回る金額で契約しても、法律上無効となり、最低賃金額で契約したものとみなされます。また、事業者側の支払い金額が最低賃金を満たしていない場合、その差額を労働者に対して支払わなければなりません。さらに、最低賃金額以上の賃金を支払わない場合には、最低賃金法で罰則として50万円以下の罰金が定められています。
「介護労働者の労働条件の確保・改善のポイント」の中でも、労働基準関係法令や雇用管理に関する理解が必ずしも十分でない事業場が見られるとしたうえで、最低賃金額以上の賃金を支払うことが改めて明記されています。
最低賃金引き上げによる介護業界のメリット&デメリット
ここでは、最低賃金引き上げによる介護業界のメリット&デメリットのポイントを解説します。給与アップによる働く側のモチベーション向上や、事業所側が介護職員等処遇改善加算に取り組むきっかけになるといった効果が期待できるものの、人件費増による赤字のリスクや人手不足に影響する可能性も否めません。

給与アップが働きやすさに与える影響
国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、2024年分の調査結果では全体の平均給与は478万円となり、2023年と比較して18万円増加しています。医療・福祉の分野の平均給与は429万円と全体平均より低いものの、2023年の404万円から25万円増加しています。さらに2025年分の調査結果では、全体の平均給与は487万円に増加しました。しかし、医療・福祉の分野の平均給与は424万円と、前年分よりやや減額しており、給与アップの難しさもうかがえます。
賃金面だけに注目すれば、給与アップによって職員の働きやすさにつながる可能性があり、働く側のモチベーション向上や離職率の低下などが期待できます。一方で、近年では物価上昇が社会課題になっており、給与アップがそのまま生活改善につながるとは限りません。また、最低賃金の引き上げによって、役職間の賃金差が縮小する懸念もあります。賃上げが平等に行われない場合、すでに最低賃金以上の給与を受け取っている職員のモチベーション低下につながる可能性もあるため、給与の見直しには工夫が必要です。
介護職員等処遇改善加算へのモチベーション向上
「介護職員等処遇改善加算」には、月額の賃金改善も要件に含まれています。処遇改善加算制度は、2024年6月以降に「介護職員等処遇改善加算」に一本化され加算率が引き上げられており、賃上げにつなげやすいこともメリットです。最低賃金の引上げは賃金改善に積極的に取り組む機会でもあるため、「介護職員等処遇改善加算」へのモチベーション向上にもつながるでしょう。

人件費増による赤字の懸念
最低賃金引き上げは、実質的に運営側の負担になる部分も大きいです。人件費を捻出するためには、資金を用意しなければなりません。「令和7年度介護事業経営概況調査」では、令和6年度決算における全サービス平均の37.5%が赤字事業所であるという結果が出ました。とくに施設サービスは44.8%が赤字となり、各サービス内でも高い割合です。これらの結果からもわかるように、赤字運営の施設は少なくないため、簡単に人件費を上げることは難しいといえるでしょう。
最低賃金引き上げが人手不足に影響する可能性
最低賃金の引き上げによって、職員のモチベーション向上や離職率の低下が期待できる一方で、かえって人手不足につながる懸念も挙げられています。先述したように、人件費を捻出できなければ、人材確保そのものが難しくなるでしょう。また、最低賃金の引き上げに伴い、職員側が扶養控除内で働くために勤務時間を減少させる動きも予測されます。すでに人手不足が深刻な介護業界では、大きなデメリットにつながる可能性があるため注意が必要です。
介護業界に生じている課題と厨房業務の最適化
介護施設では厨房も含めて人手不足の課題が深刻化しており、栄養士の業務負担にも影響しています。ここでは、人件費増や人手不足の課題解決につながる、厨房業務の最適化のヒントを解説します。

介護業界の深刻な人手不足と厨房業務の圧迫
介護業界では、人手不足の課題が続いており、今後需要数がさらに増えることも踏まえると、課題は一層深刻化する恐れがあります。加えて介護施設では、厨房業務の人手不足も大きな問題となっており、栄養士の業務にも負担が及んでいます。栄養士の業務には調理も含まれますが、人手不足のために厨房業務の割合が増え、他の業務に割ける時間がほとんどなくなるケースも見られるほどです。
厨房改革による人件費増や人手不足の課題解決
人手不足でありながら、人件費増への対応も現実的でない場合は、厨房の省人化を意識した改革が役立ちます。例えば、厨房業務を効率化する切り口として下記のような方法があります。
- 従来のクックサーブ方式から、調理の効率化につながるクックチルやニュークックチルなどの新調理方式に変更する
- 調理を自動化できる機器を導入する
- 完全調理済み食品を導入する
- 給食業務自体を全て外部委託する
クックチル方式やニュークックチル方式は、あらかじめ調理を行っておき提供前に再加熱するスタイルのため、従来の毎食ごとに調理するクックサーブ方式と比較して調理作業を効率化することができます。自施設の厨房と相性の良い方法で、コストも検討しながら、省人化できるシステムを導入してみましょう。
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急な給食委託会社の撤退を受け、さまざまな選択肢に悩む施設が増えています。人材不足や人件費の高騰といった社会課題があるなかで、すべてを委託会社に丸投げするにはリスクがあります。今後、コストを抑えつつ理想の厨房を運営していくために、クックチルを活用した「直営支援型」への切り替えを選択する施設が増加していくことでしょう。
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