医療・介護福祉分野では、患者や利用者のQOL向上が非常に重要な目標の一つです。今回の記事は、そんなQOL向上の要となる食事をテーマにお届けします。はじめに、QOL向上の意味や食事の役割を詳しく解説。後半では、病院・介護福祉施設における食事の品質・満足度向上のポイントをまとめてお伝えします。
目次
医療・介護福祉分野におけるQOL向上の意味
QOLはQuality of life(クオリティ・オブ・ライフ)の略語で、「生活の質」「人生の質」「生命の質」といった日本語に訳されます。医療・介護福祉分野においては、「加齢や病気などにより従来と同じ生活ができなくなった人が、満足感・充実感・幸福感のある生活を送れる状態」を意味しています。実際は本人の主観によるところが大きく、QOL向上のための支援もバリエーションが豊富です。患者や利用者のQOL向上が重視される主な理由としては、以下のようなことが挙げられます。
心身の健康状態を維持・改善するため
病院や介護福祉施設は、さまざまな人の健康を預かる場所。だからこそ、QOL向上と健康状態の維持・改善が非常に深くかかわっています。例えば、慢性的な腰痛が治療で緩和され、日常生活での動作が快適になった場合、その人のQOLは向上したといえるでしょう。嚥下機能が低下した高齢者がリハビリを行い、食べられるものが増えた場合なども同様に考えられます。また、治療について丁寧な説明を行うことで患者が抱える不安を取り除いたり、利用者が生きがいを感じられるレクリエーションや地域行事を取り入れたりすることは、精神的・社会的な意味でのQOL向上につながります。

医療・介護福祉サービスの質を上げるため
病院や介護福祉施設に対する満足度が低ければ、患者や利用者のQOL向上は期待できません。つまり、QOL向上を重視することで、結果的に医療・介護福祉サービスの質も上がっていくのです。前述した健康状態の維持・改善にも関連しますが、例えば、がん治療の現場ではQOLへの配慮が特に大きな意味を持ちます。身体的にも精神的にもダメージが大きい病気だからこそ、患者の負担が少なく、できるだけ本人の希望に沿った形でケアしようとする医療機関も多いようです。
医療費や介護費の削減につなげるため
令和6年10月1日時点で、日本の高齢化率は29.3%です。少子高齢化の状況は急激に進んでおり、将来は医療費や介護費が増大し、社会保障制度が破綻することも懸念されています。しかし、患者や利用者のQOL向上を目指し、健やかな生活が送れるようになれば、医療・介護福祉系サービスの需要も落ち着く可能性があるのです。医療費や介護費の削減は、医療・介護福祉分野に限った話ではなく、これからの日本社会全体にとって非常に重要な課題といえるでしょう。
参考:令和7年版高齢社会白書

QOL向上の観点からみた食事の役割
冒頭でもお伝えしましたが、食事はQOL向上の要となります。本項目では、食事にどのような役割があるのか具体的にまとめてみました。
食事の役割①毎日の楽しみや生きがい
おいしい食事や温かい食事は、人を幸せにするといわれています。そのポイントは、食べることで分泌される脳内ホルモンです。特に注目すべきなのは、精神的なストレスを和らげるセロトニン、安らぎをもたらすオキシトシン、やる気を引き出すドーパミン、気分を高揚させるエンドルフィンの4つ。これらの働きによって、食事が毎日の楽しみや生きがいになるのです。
2023年に株式会社 Hakuhodo DY Matrixが実施した「100年生活者調査~食事編~」では、対象者(20代〜80代の男女728名)の90%以上が「食事で幸せな気持ちになったことがある」と回答しています。また、株式会社電通が実施した「食生活に関する生活者調査2024」では、対象者(15歳〜79歳の1,300名)の60.5%が「食べることに幸せを感じる」と回答。こちらは直近3年間で減少傾向にあるものの、2つの調査結果をあわせてみると、食事はQOLに影響を与えていると考えていいでしょう。
参考:食欲の秋を前に、【100年生活者調査~食事編~】を実施 食事が2万回以上増える人生100年時代、100歳まで生きたいのは食事で小さな幸せを感じる“幸福体質”の人!
食事の役割②生きるために必要な栄養摂取
生きるために必要な栄養をとることも、食事の主な役割です。先にお伝えした通り、健康状態の維持・改善はQOL向上につながります。そのためには、栄養バランスが偏らないような献立を心がけるのがポイント。主食(炭水化物を含む白米・パン・麺類など)、主菜(たんぱく質や脂質を含む肉・魚・乳製品・卵・大豆製品など)、副菜(ビタミンやミネラルが豊富な野菜・果物・ナッツ類など)の3つを基本に考えるのがいいといわれています。朝・昼・晩の食事だけで栄養が足りない場合は、栄養補助食品を活用するのもおすすめです。

食事の役割③規則正しい生活リズムの確立
食事は、朝・昼・晩の3回とることが望ましいとされています。食事の時間がバラバラになると、自律神経や腸内環境の乱れをはじめ、さまざまな不調を招きやすくなります。つまり、毎日できるだけ決まった時間に食事をすることが重要なのです。このサイクルが定着すれば、生活リズム全体が整うため、健康維持とQOL向上につながります。睡眠の質が上がったり、疲れが取れやすくなったりする効果も期待できるため、メリットは大きいといえるでしょう。
食事の役割④「共食」による充実感
誰かと一緒に食べる「共食」には、多くのメリットがあります。例えば、いろいろな食材を食べる機会が増えたり、コミュニケーションによって心が安定したりすることなどが挙げられます。③と関連しますが、生活リズムが整いやすくなることも注目すべきポイントです。年代別でいうと、こどもは苦手な食材の克服や食事マナーの学習、高齢者は食欲低下の防止や食事量の増加といったメリットがあります。
病院給食や介護給食の品質・満足度向上につながる施策
病院給食や介護給食によってQOLを向上させるには、食事の品質・満足度を上げることが重要です。では、そのポイントを詳しくみていきましょう。

①旬の料理や行事食を取り入れる
日本は、春夏秋冬それぞれで楽しめる食材が豊富です。四季が感じられる旬の料理、お正月やお月見といった暦上のイベントにあわせた行事食を取り入れると、食事に特別感が生まれるでしょう。入院・入所が長くなると、毎日の生活が単調に感じてしまうこともあります。食事のちょっとした変化も患者や利用者にとっては楽しみの一つになり、QOL向上につながります。
②献立のバリエーションを増やす
似たような献立が続くと、飽きて食欲が低下し、食事量が減ってしまう可能性も高まります。病院・介護福祉施設では免疫力や体力が低下している人も多いため、QOLを維持・向上させるには、きちんと食べてもらわなくてはなりません。毎日でも飽きないよう、料理のジャンルや調理方法などを見直し、献立のバリエーションを増やすといいでしょう。

③治療食や介護食も楽しめるよう工夫する
病院・介護福祉施設では、病気や体調などにあわせた治療食、摂食・嚥下機能にあわせた介護食(嚥下対応食)も提供されています。ところが、「薄味でおいしくない」「見た目がよくない」などの理由から、食事量が減ってしまうケースもあるのです。調整すべき栄養成分や食形態そのものは変更できませんが、だしの風味を強くしたり、彩りや盛り付け方にこだわったりすることで食事の品質・満足度が上がるでしょう。
④調理技術の向上や工程の標準化を図る
厨房スタッフの調理技術を上げることも、食事の品質向上につながります。予算や設置スペースに余裕がある場合は、自動調理器などの導入で調理工程の標準化を図るのも一つの方法です。
⑤アンケートのデータを活用する
患者や利用者の声が直接聞けるアンケートの実施も有効です。集計したデータを分析すれば、食事の品質改善に役立てることができるでしょう。
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