令和8年度診療報酬改定では、特別食加算に「嚥下調整食」が新たに位置づけられました。
「どこまでが加算対象なのか」
「刻み食やペースト食との違いは何か」
「算定できる条件は何か」
……と悩む現場も増えています。
特に高齢者施設や病院では、誤嚥リスクや低栄養リスクへの対応が重要なため、食形態の個別対応は欠かせません。一方で、食形態が細かく分かれるほど調理や管理の負担は増えやすく、現場の悩みにつながりやすいのも実情です。
今回は、特別食加算における嚥下調整食の区分や対象範囲、算定可否の判断ポイントを整理しながら、現場でどのように進めるべきかを解説します。
目次
嚥下調整食と嚥下食の違いとは|まず押さえたい基本

まずは、「嚥下調整食」と「嚥下食」の違いを整理しておきましょう。現場では似た意味で使われることもありますが、制度上の考え方や加算対象の判断では違いがあります。特に、単なる刻み食やペースト食との違いを理解しておくことが重要です。
嚥下調整食とは何か
嚥下調整食とは、飲み込みやすさや誤嚥防止に配慮して、硬さ・まとまりやすさ・付着性などを調整した食事のことです。加齢や疾患によって咀嚼機能や嚥下機能が低下すると、普通食を食べることが難しくなります。そのため、口の中でつぶしやすくする、水分にとろみを付けるなど、患者一人ひとりの状態に合わせた調整が必要なのです。
適切な食形態で提供することで、誤嚥リスクを減らしながら食事摂取量の維持にもつなげやすくなります。一方で、必要以上にやわらかくしたり、単調な食形態が続いたりすると、食欲低下や低栄養につながる可能性もあります。
そのため、嚥下調整食では「安全性」と「食べる楽しみ」の両立が重要になります。
嚥下食と嚥下調整食はどう違う?
「嚥下食」と「嚥下調整食」は、基本的にはどちらも飲み込みやすく調整した食事を指す言葉です。
一般的に「嚥下食」は、飲み込みやすいようにとろみや食形態を調整した食事全般を指して使われています。刻み食やミキサー食、ペースト食などを含めて呼ばれることも多く、施設によって意味合いが異なる場合があります。
「嚥下調整食」は、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の分類を参考に、安全性や飲み込みやすさに配慮して整理された食事です。つまり、「嚥下食」は現場で広く使われる総称であり、「嚥下調整食」は学会分類や制度上の考え方を踏まえて整理された食事という違いがあります。
制度上の扱いの違い
令和8年度診療報酬改定では、特別食加算の対象として「嚥下調整食」が新たに位置づけられました。ここで重要なのは、「おいしく安全な食形態で、適切な栄養量を有すること」が求められている点です。つまり、単なるやわらか食や刻み対応ではなく、嚥下機能への配慮や安全性、栄養管理、食形態の適切な設計まで含めた対応が必要になります。
まずは自施設で提供している食形態が、どのような基準で運用されているのかを整理しましょう。
特別食加算における嚥下調整食の区分と対象範囲

令和8年度診療報酬改定では、特別食加算の対象として「嚥下調整食」が新たに追加されました。やわらかい食事であれば何でも対象になるわけではありません。ここでは、どのような食形態が加算対象となるのか、対象外になるケースも含めて整理します。
嚥下調整食の区分
特別食加算では、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食分類2021」が広く参考にされており、食形態は下記のようなコードごとに整理されています。
「嚥下調整食分類2021」では、嚥下訓練食品にあたるコード0j・0t、嚥下調整食にあたるコード1j・2・3・4に分けられています。食形態は、飲み込みやすさ、まとまりやすさ、離水のしにくさ、口腔内での処理のしやすさなどによって区分されています。
| コード・名称 | 形態 |
|
コード 0j(嚥下訓練食品 0j) |
均質で、付着性が低く、凝集性が高く、硬さがやわらかく、離水が少ないゼリー。スライス状にすくうことが容易で、スプーンですくった時点で適切な食塊状となっているもの |
|
コード 0t(嚥下訓練食品 0t) |
均質で、付着性が低く、粘度が適切で、凝集性が高いとろみの形態 |
|
コード 1j(嚥下調整食 1j) |
均質でなめらかかつ離水が少ないゼリー・プリン・ムース状の食品である |
|
コード 2(嚥下調整食 2) |
スプーンですくって、口腔内の簡単な動作(動き)により適切な食塊にまとめられるもので、送り込む際に多少意識して口蓋に舌を押しつける必要があるもの |
|
コード 3(嚥下調整食 3) |
形はあるが、歯や補綴物がなくても押しつぶしが可能で、食塊形成が容易であり、口腔内操作時に多量の離水がなく、一定の凝集性があって咽頭通過時のばらけやすさがないもの。やわらか食、ソフト食などといわれていることが多い |
|
コード 4(嚥下調整食 4) |
かたすぎず、ばらけにくく、貼りつきにくいもので、箸やスプーンで切れるやわらかさをもつ |
令和8年度診療報酬改定で嚥下調整食が新たに評価対象となった背景には、高齢患者の増加があります。加齢によって嚥下機能が低下すると、誤嚥や低栄養のリスクが高まりやすくなるためです。
そのため近年は、単に飲み込みやすくするだけではなく、「安全に、必要な栄養をしっかり摂れる食事」が重視されるようになっています。実際に、見た目や食感、栄養面に配慮した嚥下調整食を提供することで、食事摂取量の増加やADL改善につながるという報告もあります。
一方で、嚥下調整食は通常食より調理工程が増えやすく、食材コストも高くなりやすい側面があります。こうした背景から令和8年度診療報酬改定では、「おいしく安全な食形態で適切な栄養量を有する嚥下調整食」であることが、新たに評価対象として位置づけられました。
このように、利用者の嚥下機能や咀嚼機能に応じて、適切な区分を選択することが必要とされているのです。
対象となる食形態
加算の対象となる嚥下調整食は、日本摂食嚥下リハビリテーション学会の「嚥下調整食分類2021」を参考に、安全で嚥下しやすいよう適切に調整された食形態でなければなりません。
具体的には、下記の項目が嚥下機能に配慮して調整されていることが求められます。
- 硬さ
- 付着性
- 凝集性
- まとまりやすさ
特に重要なのは、「飲み込みやすさ」と「栄養量」の両立です。安全性だけを優先して必要以上にやわらかくすると、食欲低下や低栄養につながる可能性もあります。そのため、嚥下調整食では、食べやすさだけでなく、食事全体としての質も求められています。
対象外となるケース
以下のようなものは嚥下調整食には該当しないとされています。
- 単にピューレやペースト状にしただけのもの
- 常食を刻んだだけの刻み食
- 刻み食にとろみを付けただけのもの
- 主食のみを嚥下調整食とした場合
「刻み食=特別食加算の対象」とは限らない点には注意が必要です。刻み食は、現場で広く使われている一方、単純に細かく刻んだだけでは、口の中でまとまりにくく、食塊がばらつくことで誤嚥リスクにつながる場合があります。
そのため現在は、刻むだけでなく、利用者ごとの嚥下状態に合わせ、安全性や飲み込みやすさを考慮しながら調整することが必要とされています。
また、主食だけを変更しているケースなども対象外となるため、食事全体として嚥下機能に配慮されているかを確認しましょう。
参考:日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021
「嚥下調整食の区分」にて掲載した表は一部抜粋となります。表の理解にあたっては、「嚥下調整食学会分類2021」の本文をお読みください。
特別食加算(嚥下調整食)の算定可否と判断ポイント

嚥下調整食は、ただ提供しているだけで自動的に算定できるものではありません。医師の指示や食形態の基準、多職種での確認体制など、いくつかの要件を満たす必要があります。算定に必要な基本要件や、現場で迷いやすい判断ポイントを整理します。
算定に必要な基本要件
嚥下調整食加算は、摂食機能または嚥下機能が低下した患者に対し、医師の発行する食事箋に基づいて嚥下調整食を提供した場合に算定できます。患者が食べにくそうだから現場判断で変更するといったケースだけでは不十分です。医師指示をもとに、適切な食形態を提供することが求められるのです。
令和8年度診療報酬改定では、以下の考え方が示されています。
- おいしく安全な食形態であること
- 適切な栄養量を確保していること
- 多様なニーズに対応できること
安全に飲み込めることだけでなく、しっかり栄養を摂れること、食事として成り立っていることも含めて評価されるようになっています。
特別食加算の対象となる患者については、ミールラウンドの実施を定期的に行うことが必要です。ミールラウンドにおいては、下記について多職種での共有と確認をします。
- 嚥下機能
- 食事摂取量
- 食事内容が適切か
- 食形態が状態に合っているか
施設基準・体制要件
嚥下調整食加算の算定には、施設の体制整備も必要です。
- 施設内で提供する嚥下調整食の一覧を作成する*
- 医師や管理栄養士などによる検食を1日1食以上行い、検食簿へ記録する
- 試食会やカンファレンスを定期的に実施する
- 実習を伴う研修を修了した管理栄養士を配置する
(*)学会分類2021に沿ったコード・名称・写真・栄養量などを記載
嚥下調整食加算では、食形態だけでなく、安全性や栄養面まで含めて施設全体で管理する体制が求められているのです。
判断に迷うケースの考え方
「この食事は算定対象になるのか」と判断に迷うケースもあるでしょう。特に迷いやすいのが、刻み食やペースト食、とろみを付けた食事です。
ただし、「やわらかくしている」「細かくしている」という理由だけでは、嚥下調整食として十分とはいえません。算定可否を考える際は、嚥下機能に配慮した食形態になっているか、安全に飲み込める物性か、必要な栄養量を確保できているかを確認しましょう。
また、医師の食事箋に基づいて提供されているか、多職種で状態確認が行われているかも重要な判断材料になります。
特別食加算(嚥下調整食)対応を進めるために

嚥下調整食は、単なる加算取得のためではなく、安全な食事提供や低栄養予防を支える重要な取り組みです。その一方で、食形態の細分化や個別対応が増えると、調理や管理の負担が大きくなりやすいのも現場の実情でしょう。だからこそ、現場の工夫だけに頼るのではなく、無理なく対応できる体制づくりが欠かせないのです。
調理工程の見直しや業務効率化を進めながら、嚥下調整食への対応と現場負担の軽減を両立していくことを考えてみてもいいでしょう。たとえば、ナリコマのクックチルのように、厨房での作業から調理工程を省き、再加熱や盛り付けが中心となるしくみを取り入れることで、個別対応食への対応もしやすくなります。クックチルが食形態の安定化や品質管理につなげやすい点も、現場にとって大きなメリットといえるでしょう。
今後さらに嚥下調整食への対応ニーズが高まっていく中で、無理なく運用できる体制を整えていくことが、これからの施設運営ではますます重要になっていきそうです。
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