昭和34年から運用されている最低賃金制度は、労働者に支払われるべき最低賃金額を国が決めるものです。法律によって使用者である企業には最低賃金以上の支払いが義務付けられ、労働者は守られる立場にあります。
今回の記事では、最低賃金制度が病院・介護施設の経営に与える影響を解説。廃業リスクが高まる可能性などについても詳しくお伝えしていきます。ぜひ最後までお読みいただき、参考になさってください。
目次
経営状況に影響を与える最低賃金制度
冒頭にも記した通り、最低賃金制度の基本は「労働者に支払われるべき最低賃金額を決定し、使用者にはそれ以上の賃金を支払う義務が発生する」という点です。これを遵守しない使用者に対しては、罰則が適用されます。最低賃金の詳細は以下の表をご覧ください。
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種類 |
内容 |
適用対象 |
使用者への罰則 |
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地域別最低賃金 |
都道府県ごとに設定される最低賃金 |
年齢や雇用形態(正社員・契約社員・パート・アルバイト・嘱託など)に関係なく、すべての労働者に適用 |
最低賃金法により50万円以下の罰金 |
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特定最低賃金 |
地域別最低賃金より高水準にする必要性を認められた特定産業に設定される最低賃金
※都道府県ごとに適用される特定産業は異なる ※令和7年9月1日現在の設定件数:224(全国) |
特定地域内の特定産業において、基幹的な役割を果たしている労働者に適用
※18歳未満または65歳以上の人、雇用期間が一定期間を満たしていない技能習得中の人、軽易な業務に従事している人などは適用対象外 |
労働基準法により30万円以下の罰金 |

企業等の経営に与える影響
最低賃金制度には、以下のようなメリット・デメリットがあります。
メリット
- 労働者は所得が増え、生活水準の維持・向上が実現する
- 経済的な安定が労働者の健康維持につながる
- ワークモチベーションが上がり、生産性も向上する
- 企業等は賃金水準を高くすることで、人材確保や離職防止につながる
- 消費行動が活発化し、企業等は売上増加・利益向上が期待できる
デメリット
- 扶養内で働くパートなどの労働時間が減り、人手不足になることもある
- 企業等では、最低賃金の引き上げが人件費増大に直結する
上記からわかるように、最低賃金の変動は社会経済と深いかかわりがあります。最低賃金が引き上げられると、企業等では生産性向上が期待できますが、その一方で人件費増大によってコスト全体が厳しくなる可能性も高まるのです。経営状況が思わしくない場合、それまでのコストバランスが崩れることで廃業リスクが生じてしまうかもしれません。特に、価格転嫁が難しい中小企業の経営において、最低賃金制度はかなり大きな影響があるといえるでしょう。
病院・介護施設が経営難に陥りやすい背景

最低賃金制度は、医療・介護分野にも多大な影響を与えます。病院・介護施設などは経営難に陥りやすく、赤字が続いたり、休廃業に至ったりするケースも少なくありません。そんな中で人件費が増えれば、経営状況が急激に悪化する可能性も高まるのです。
2025年に倒産した医療機関は、前年より2件上回る66件(病院13件・診療所28件・歯科医院25件)で過去最多。倒産の主な要因は「収入の減少」です。また、休廃業・解散となった医療機関も過去最多となる823件(前年比+100件)。その多くを占めるのは診療所で、「経営者の高齢化」や「後継者の不在」などが主な要因のようです。
介護事業者(老人福祉・介護事業)に関しても深刻な状況で、2025年の倒産は過去最多の176件(前年比+2.3%)。訪問介護事業の倒産は増加傾向が強く、2024年の81件に続き、2025年は91件となっています。介護事業者の倒産における主な要因は、「人手不足」や「売上不振」です。さらに、2024年度決算は全サービス(居宅・施設・地域密着型)の約38%が赤字となっています。
医療・介護分野における報酬の多くは「公定価格」
前述したように、医療機関や介護事業者の主な倒産要因は「売上不振(収入の減少)」です。医療機関は診療報酬、介護事業者は介護報酬として受け取る分が多く、病院・介護施設などが独自に価格転嫁することができません。つまり、経営コストが上昇しても、公定価格があまり変わらなければ経営状況は厳しくなり、廃業リスクは高まる一方なのです。
近年は物価高騰が続いており、それに伴って最低賃金額も引き上げられています。しかし、直近の倒産・赤字状況をみる限りでは、診療報酬や介護報酬の改定が十分に行われているとは言い難いのかもしれません。
経営難を乗り越え、廃業リスクを回避するポイント

医療機関や介護事業者が廃業リスクを回避するには、どのような点に配慮すべきなのでしょうか。本項目では、経営難を乗り越えるためのポイントをまとめてみました。
全体的なコストの最適化
各種コストの最適化は、病院や介護施設でも着手しやすいポイントといえるでしょう。小さなところから丁寧に見直すことで、全体的なコスト削減につながります。一例として、以下のような内容が挙げられます。
- 医薬品や診療材料の購入価格、在庫量など
- 正職員・パート・アルバイトの雇用状況と人件費のバランス
- エアコン、エレベーターなどの設備にかかるメンテナンス費用
- 外部委託業務(例:給食、清掃、警備、送迎など)の費用
業務効率化などを実現するDXの推進
医療・介護分野では、業務効率化やサービス向上に向け、デジタル技術を活用した改革(DX)が進められています。具体的な導入事例としては、電子カルテ、オンライン診療、AI搭載の介護記録アプリ、ベッドに設置する見守りセンサーなどが挙げられます。DXの推進によって金銭的・時間的・人的コストが削減されると、経営状況が好転する可能性も上がるでしょう。

診療報酬・介護報酬の加算を取得
診療報酬や介護報酬は国によって決められていますが、特定の要件をクリアすれば加算(追加報酬)を取得することができます。種類は非常に細かく分かれており、医療・介護分野それぞれに特化した加算もあります。下記のリストは、近年になって追加された加算の一例です。加算ごとの算定要件を満たすことができれば、医療機関や介護事業者にとっては収入増加につながり、経営コストに余裕が生まれるかもしれません。
診療報酬の加算例
医療DX推進体制整備加算、医療情報取得加算、ベースアップ評価料、急性期リハビリテーション加算、発熱患者等対応加算 など
介護報酬の加算例
科学的介護推進体制加算、介護職員等処遇改善加算、生産性向上推進体制加算、認知症専門ケア加算 など
国や自治体の支援サービスを活用
国や自治体が提供する中小企業・小規模事業者向けの支援サービスを活用すれば、経営状況が好転するかもしれません。例えば、「業務改善助成金」は生産性を向上させ、最低賃金の引き上げに対応できるようにするための支援です。通所介護事業の活用事例では、引き上げリフトやスロープ付きの福祉車両を導入したことで、車椅子を使う利用者も含めた送迎の効率がアップ。結果として、人員削減や送迎時間の短縮につながったようです。
ほかにも「デジタル化・AI導入補助金」「省力化投資補助金」「働き方改革推進支援助成金」などの幅広い支援サービスがあるため、必要に応じて要件を確認し、活用を検討するといいでしょう。
食事提供がある場合は厨房業務の見直しも有効

入院患者や利用者に食事を提供している病院・介護施設では、当然ながら厨房業務も最低賃金引き上げの影響を受けます。病院給食や介護給食は治療、健康維持といった目的があるため、提供を止めるわけにはいきません。次のようなコスト削減のポイントを見直すことで、厨房業務が最適化され、廃業リスクの低下にもつながるでしょう。
食材ロスや廃棄
仕入れる食材の種類・価格・量・タイミングなどを見直し、在庫をきちんと使い切れるように徹底した管理体制が重要です。安価な食材のメニューに切り替えるのもいいでしょう。
仕込みや調理の工程
時短調理が可能なメニューへの変更、完全調理済み食品や缶詰の活用、自動調理器の導入などは、仕込みや調理にかかる水道光熱費・人件費などの削減につながります。
事務系作業の効率化
献立作成や食材発注など、厨房業務における事務系作業は、AIなどのデジタル技術を使った専用システム(例:自動献立作成システム、食材管理システム、帳票作成ツールなど)を導入することで効率化が進みます。担当者の作業負担はもちろん、無駄な残業代を減らすことにもなります。
委託や配食サービスの検討
厨房運営が直営の場合、一部の業務を委託にしたり、調理業務が大幅に減る配食サービスを利用したりすることでコスト削減につながるかもしれません。コスト面だけでいうと逆に高くなってしまうケースもあるため、費用対効果を意識しながら丁寧に検討すべきでしょう。
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