病院や介護施設の厨房における長時間労働は、人手不足を深刻化させる要因となっています。長時間労働を削減する主な対策は「事務系業務の効率化」「経験豊富な人材の採用」「調理工程・方法の見直し」です。
調理工程・方法の見直しについては、いろいろな選択肢があります。病院や介護施設などでも導入が進んでいる新調理システム(クックチル、ニュークックチルなど)、給食委託会社や配食といった外部サービスを取り入れることで、調理業務の流れや人員配置は大きく変わるでしょう。
近年は少子高齢化が急速に進んでおり、医療・介護業界に限らず、人手不足は深刻化するといわれています。つまり、病院や介護施設で安定したケア体制を整えるには、この先も持続可能な環境が必要です。厨房の労働環境も早めに改善し、将来に備えましょう。
目次
厨房の人手不足を深刻化させる長時間労働

病院や介護施設において、厨房の人手不足は深刻化する傾向にあります。2023年10月~2024年1月の期間、日本医労連加盟組合のある123の病院・施設で「病院給食実態調査」が実施されました。同調査によると、60.2%が人手不足を職場の問題として認識しています。
また、最も多い勤務時間は8時間30分で、管理栄養士・栄養士では64.2%、調理師・調理員では69.1%です。管理栄養士・栄養士、調理師・調理員のどちらも数%は10時間を超える勤務があると回答しています。このような結果から、厨房の人手不足は長時間労働につながりやすいといえるでしょう。しかし、厨房で長時間労働が発生しやすい原因は人手不足だけではありません。
基本的に、厨房は業務量が多い現場です。「病院給食実態調査」で74.8%となった給食の提供方法は、調理後にすぐ盛り付けて提供するクックサーブ。クックサーブはできたての給食を楽しんでもらえるメリットがあります。その反面、厨房では提供時間までに大量の下ごしらえや調理をスムーズに行わなければならないのです。場合によっては早出や残業の必要があり、長時間労働が発生しやすくなります。
また、厨房の従業員がやるべきことは、給食の調理と提供だけではありません。担当する仕事内容は職種により異なりますが、調理場や調理機器の清掃、食材の発注と在庫管理、献立作成、栄養管理、衛生管理なども含まれます。例え人手不足でもこういったさまざまな業務をこなさなくてはならず、結果として長時間労働になってしまうのです。
長時間労働が従業員に与える影響

近年では厚生労働省が「働き方改革」や「過労死等防止対策」などをまとめて推進しており、病院や介護施設でも労働環境が見直されるようになってきました。では、実際のところ、厨房の人手不足に伴う長時間労働は従業員にどんな影響を与えるのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
①健康被害のリスクが高まる
長時間労働が続くと、日々の睡眠や休養が不足しがちになります。勤務時に大きな労働負荷がかかるだけでなく、帰宅後も疲れが抜けません。疲労が蓄積してしまうと、さまざまな健康被害のリスクが高くなります。
長時間労働が原因とされた健康被害の例で特に深刻なものは、脳・心臓疾患と精神障害です。脳・心臓疾患は労災として扱われ、2003年〜2010年には年間300件ほど認定されていました。2019年以降も年間200件ほど認定されているため、長時間労働の現場はまだまだ多いと考えられます。
また、精神障害は少なからず重症化することもあり、最悪の場合、自殺に発展してしまうかもしれません。長時間労働は従業員の体だけでなく、心にも大きな影響を与えてしまうのです。
②生産性が低下する
長時間労働は生産性が低下する原因にもなります。人間の集中力は15分周期といわれており、限界とされている最大持続時間は90分。つまり、働く時間が長くなるほど集中力は続かなくなり、思わぬミスが起こったり、作業に時間がかかったりするのです。従業員が業務に集中し、確実にこなせるよう、企業側は勤務体制や労働時間を調整する必要があるでしょう。
③プライベートが充実しにくい
長時間労働は、その名の通り、拘束時間が長くなります。①でもお伝えしたように、疲れがなかなか抜けず、心身共にプライベートの時間を楽しめなくなる可能性は高いでしょう。リフレッシュできないことから、業務に支障をきたす従業員も出てきてしまいます。
④モチベーションが下がる
当然のことですが、多くの従業員にとって、長時間労働は楽なものではありません。だからこそ、モチベーションを維持することも大変なのです。それ相応、もしくはそれ以上の対価がなければ、心身を削ってまで長時間働きたいと思う人はいないでしょう。
厨房における長時間労働と人手不足の解決策

前述したように、病院や介護施設では厨房の人手不足と長時間労働が相互関係にあり、悪循環をもたらしています。しかし、解決策がないわけではありません。本項目では、厨房における長時間労働と人手不足の解決策をお伝えします。
解決策①事務・管理業務を効率化する
献立作成をはじめとする事務、栄養・衛生面などの管理業務は、専用ツールやソフトウェアを使って効率化すると良いでしょう。煩雑な作業をシンプルにまとめれば時短になり、残業も大幅に減らせるはずです。業務量が減ると、最小限の人員で対応できる時間帯も出てくるでしょう。また、近年はAIなどのIT技術も多く活用されています。費用対効果が高ければ、効率化の手段として有効でしょう。
解決策②厨房専門の人材派遣サービスを利用する
直接的な方法ですが、人材派遣サービスで従業員を補えば、人手不足を解消し、長時間労働にならざるを得ない状況も改善できるでしょう。調理師や栄養士など厨房関連の職種に特化した企業もあります。経験豊富な人を雇うことで業務がスムーズに進む可能性にも期待できます。
解決策③調理工程・方法を細かく見直す
調理は厨房の主たる業務です。工程を見直して無駄があれば省いたり、大量の食材を効率よく調理できる機器を入れたりするのも良いでしょう。また、クックサーブ以外の調理方法を採用することで、人員配置や業務スケジュールが変更できるかもしれません。また、院内や施設内での対応にこだわらず、給食委託会社などの外部サービスを頼ってみるのも一つの方法です。
新調理システムや外部サービスによる長時間労働の削減

前述した長時間労働の解決策③について、深掘りしていきましょう。調理工程・方法の見直しは、厨房業務全体の改革につながる基本的な部分です。本項目でお伝えするポイントは、「クックサーブ以外の調理方法」と「外部サービス」の二つ。それぞれの特徴をまとめてみました。
新調理システム(クックチル、ニュークックチル)
チルド保存を利用した新調理システムとして知られるクックチルとニュークックチルは、どちらも厨房の人手不足解消や業務効率化に効果的です。
クックチルは事前に調理した食材(料理)を急速冷却し、0〜3℃のチルド状態で保存。食事時間に合わせて専用機器で再加熱し、簡単な仕上げや盛り付けをするだけで提供することができます。また、ニュークックチルはクックチルを進化させた方法。調理後に盛り付けまで行ってからチルド保存し、器やトレイごと再加熱して提供します。
また、クックチルやニュークックチルの特徴は、クックサーブのデメリットをカバーすることもできます。
|
クックサーブのデメリット |
クックチル(ニュークックチル)の特徴 |
|
|
・作り置きができないため、食品ロスが出やすい。 ・食材の下ごしらえから提供まで通して業務を行うため、人員が必要。 ・提供時間から逆算して業務を行うため、トラブルが発生するとスケジュール通りに進まないことがある。 ・現場に余裕がなくなってしまうことで、衛生管理が甘くなるリスクも高まる。 |
・大量調理を行うため、食品ロスが出にくい。 ・調理後にいったんチルド保存する(最大5日間)ため、食中毒などの発生リスクが低下し、業務スケジュールも組みやすい。 ・限られた人員でも、空き時間を有効的に使って調理を進めることができる。 ・盛り付けまで済ませてから再加熱するニュークックチルは、少ない人数でスピーディに提供することができる。 |
|
上の比較表からもわかるように、クックチルとニュークックチルは「事前調理+チルド保存」というしくみによって長時間労働を削減しています。
委託や配食などの外部サービス
給食委託会社は、厨房業務のすべて、もしくは一部を委託するシステムです。また、お弁当やお惣菜を届けてもらう配食は、配送エリアが限定されるケースもありますが、献立作成や調理などの業務が大きく削減されます。
このような外部サービスは、高コストになりがちですが、病院や介護施設が直接雇用する従業員の業務量削減には非常に大きな効果があります。業務量が少なくなれば、労働時間も自然と抑えられるでしょう。
厨房の労働環境改善に!ナリコマの献立サービス

ナリコマでは、厨房の労働環境改善にも貢献できる献立サービスを展開しております。弊社セントラルキッチンから、クックチルやニュークックチルに対応した完全調理済み食品をお届け。少人数でもスムーズに給食を提供することができます。
また、ソフト食やミキサー食、ゼリー食など、高品質の介護食もご用意。行事食や郷土食などを取り入れたバリエーション豊かな献立で、アレルギーなどの個別相談も可能です。少量でもきちんと栄養がとれるよう計算されていますので、入院患者や高齢者の方々にも安心してご提供いただけます。厨房における長時間労働や人手不足でお悩みでしたら、、ぜひナリコマの献立サービスもご検討ください。
クックチル活用の
「直営支援型」は
ナリコマに相談を!
急な給食委託会社の撤退を受け、さまざまな選択肢に悩む施設が増えています。人材不足や人件費の高騰といった社会課題があるなかで、すべてを委託会社に丸投げするにはリスクがあります。今後、コストを抑えつつ理想の厨房を運営していくために、クックチルを活用した「直営支援型」への切り替えを選択する施設が増加していくことでしょう。
「直営支援型について詳しく知りたい」「給食委託会社の撤退で悩んでいる」「ナリコマのサービスについて知りたい」という方はぜひご相談ください。
こちらもおすすめ
社会課題に関する記事一覧
-
食形態の変更はQOLに影響あり!工夫を凝らして高齢者の「食べる楽しみ」を支えよう
咀嚼機能や嚥下機能が低下した高齢者は誤嚥などの危険性があるため、食形態を調整した食事にする必要があります。主な種類としてきざみ食・ソフト食・ムース食・ミキサー食・ペースト食・流動食などが挙げられますが、安全性の確保と引き換えに、食欲が低下してしまうケースもよくみられます。
食欲低下は食事量の減少につながり、低体重・低栄養のリスクも高まってしまうのです。低体重・低栄養はフレイルなどを発症するきっかけとなり、QOLを著しく低下させます。高齢者のQOL向上を重視する介護施設では、単に食形態を変更するだけではなく、「食べる楽しみ」を維持する工夫も必要です。次のような点を心がけ、高齢者の豊かな食生活、QOLの維持・向上を目指しましょう。
・五感を刺激する
・本人の嗜好や希望に応える
・季節や行事にあわせた演出をする
・共食の機会を設ける -
医療・介護における高栄養食の重要性|特別食加算の対象となる嚥下調整食の課題とは
医療機関や介護施設で提供される食事は、「治療と健康維持のサポート」「日常的な楽しみの一つ」「自宅療養や在宅介護における食生活の向上」といった役割を担っています。近年では、咀嚼機能(かむ力)や嚥下機能(飲み込む力)が低下した患者や利用者に提供する嚥下調整食の重要性が再認識され、診療報酬における特別食加算の対象項目に追加されました。
嚥下調整食は食べやすさや飲み込みやすさを実現する一方、見た目の違和感などから食欲不振を招きやすく、低栄養になる可能性もあります。食事量が少ない患者や利用者には、高栄養食がおすすめです。
・カロリーや栄養価の高い食材を使う
・筋肉のもとになるたんぱく質を積極的にとる
・栄養価が下がりにくい調理方法にする
・栄養補助食品や医薬部外品を取り入れる
・一日の食事回数を増やし、必要な栄養を確保する
特に、高齢者は低栄養から体重が減少し、フレイル、ロコモティブシンドローム、サルコペニアなどを発症するリスクが大きくなります。日頃から、低栄養にならないような食生活をサポートしましょう。 -
低体重・低栄養のリスクと対策を解説!食事量が少ない高齢者のケアには嚥下調整食を活用しよう
高齢者の食事量・体重の減少は、フレイルや要介護への移行サインである可能性が高く、早期ケアが重要です。健康維持のためには、低栄養予防につながる以下のような対策が求められます。
◆生活習慣:「一日三食」「一汁三菜」を基本とし、一度に食べられない場合は分食による食事量の確保を行う。
◆栄養補給:毎日の食事における“ちょい足し”アレンジ、効率よく栄養がとれる食材の選定を心がける。
◆健康管理:歯科健診による口腔ケアを行い、ウォーキングなどの軽い運動を取り入れる。
◆嚥下調整食(介護食)の活用:摂食機能のレベルにあわせた食形態に変更し、安全な食事環境を整える。
こうした日常的な取り組みによって栄養状態を改善し、自分らしくイキイキとした生活の基盤をつくりましょう。
経営課題に関する記事一覧
-
病院給食が値上げされた背景とは?入院時食事療養費の算出方法、物価高騰対策を解説
病院給食は、患者の栄養状態を整え、より良い治療を行うための重要な役割を果たしています。病院が受け取る診療報酬は国が定めており、給食に関する費用もその中で賄われます。しかし、長期にわたり価格は据え置かれ、近年の急速な物価高騰によって病院の厨房運営はかなり厳しい状況に陥りました。
こうした状況は治療環境が悪化し、患者の不利益になる可能性もあるため、国は2024年から2026年の間に病院給食の値上げを実施しています。ところが、物価高騰はさらに進んでおり、依然として対策が必要です。ポイントとして次のようなことが挙げられます。
●仕入れ先を変更する
●安価に使える食材に切り替える
●高価な食材の使用回数を減らす
●食材や消耗品の発注数を調整する
●コストがかかる献立内容(揚げ物など)を見直す
このほか、完調品を使った業務効率化と省人化により、全体的なコスト削減を図るのもおすすめです。良質な病院給食を欠かさずに提供できるよう、安定した厨房運営体制を整えましょう。 -
最低賃金改定が医療業界に与える影響|看護助手・調理補助の業務委託によるコスト管理と給食部門の効率化
2026年度の最低賃金改定により、2025年度に続いて高水準の引き上げとなり、医療業界でも負担の増加が懸念されています。以前から人件費増などにより赤字を抱える病院は少なくないこともあり、今回の最低賃金引き上げに伴い、さらなる経営の工夫が求められるでしょう。また、病院では、看護助手・看護アシスタントなどの看護補助者や、調理師・調理補助などの人手不足が深刻化しています。最低賃金改定が人手不足をさらに加速させる懸念もあるため、賃金対応と並行して人手不足対策も行う必要があります。
この記事では、最低賃金改定が医療業界に与える影響を紐解きながら、看護補助や調理補助の業務委託の活用方法、給食部門の人手不足対策に役立つ厨房改革などについて解説します。 -
給食委託費に含まれるものとは?直営と委託の違いやコスト削減のコツを解説
厨房運営で大きな課題となるのがコスト管理です。直営から委託に切り替えても期待したほど改善しないケースもあり、給食委託費は多くの施設で悩みの種となっています。給食委託費には、人件費や食材費をはじめさまざまな費用が含まれています。
この記事では、給食運営の直営と委託の違いを改めて整理しながら、給食委託費に含まれるものの内訳や委託費を見直す際のポイント、コスト削減に向けて給食運営をもっとシンプルにするコツを解説します。

