病院給食は、その名の通り、主に入院患者さんに提供されています。価格は長らく据え置かれてきましたが、2024年6月1日に値上げが行われたことで注目を集めました。今回の記事は、この「病院給食の値上げ」をテーマにお届けします。
病院における給食の重要性や、値上げに至った背景などを詳しく解説。近年さまざまなところで影響を及ぼしている物価高騰への対策についてもまとめてみました。ぜひ最後までお読みください。
目次
病院給食の重要性
病院給食は、1948年に「医療法」が制定されたことから始まりました。それ以前は患者さんや家族が病室で自炊をしていたそうですが、「医療法」では、病院に対して給食施設と栄養士の設置を義務付けたといいます。
1950年に開始した「完全給食制度」では、栄養・衛生面の問題がなくなるように患者さんの食事を管理するため、病院給食は治療の一環として位置付けられました。こうした経緯をみると、病院給食は昭和の頃から重要性が高まっていたことがうかがえます。
現在の病院給食は、入院時食事療養という名目で扱われています。患者さんを診断した医師の指示に従い、管理栄養士が一人ひとりにあわせた栄養管理計画を作成。アレルギーや食の好みも考慮し、栄養指導なども実施します。もちろん、患者さんの状態が変われば、それに伴って栄養管理計画も変更。つまり、個別かつ細やかな対応が求められます。
以上のことからわかるように、病院給食は単なる食事ではなく、患者さんの治療や早期回復のために必要とされているのです。また、退院後の食生活における目安という役割もあります。学校や社員食堂などで提供される給食とは意味や目的が大きく異なっており、重要性もより高いといえるでしょう。
病院給食を値上げした背景
冒頭でお伝えしたように、2024年6月1日から病院給食が値上げされました。値上げは、約25年ぶりだといいます。消費税率はもともと3%でしたが、1998年以降に5%、8%、10%と引き上げられてきたにもかかわらず、病院給食の価格は変化なし。2023年には全日本民主医療機関連合会や公益社団法人日本メディカル給食協会などが、厚生労働省に対して病院給食の値上げに関する要望書を提出しました。
では、今回の値上げにはどういった背景があるのでしょうか? 最も注目すべき点は、近年急速に進んでいる物価高騰です。その要因はいくつかありますが、ここでは主なものをまとめてみました。
物価高騰の要因①感染症の流行や天候不順
2020年頃に爆発的な流行が始まった新型コロナウイルスは、人の流れを途絶えさせ、日本だけでなく世界各国で経済的な打撃を与えました。当時上昇していた原材料価格は、新型コロナウイルスの流行が落ち着いてきた現在も下がる気配はありません。
また、天候不順によって農作物が不作となるケースも多くみられました。不作になれば、価格が上昇したり、出荷が止まって代替品を頼らざるを得なくなったりします。
物価高騰の要因②ロシアのウクライナ侵攻など
2022年2月から現在まで続くロシアのウクライナ侵攻は、エネルギー価格を変動させました。ロシアは石油、天然ガスなどのエネルギー資源が豊富。ところが、ウクライナ侵攻によって各国への輸出が制限される事態になったのです。
このほか、2023年10月に中東のイスラエル・パレスチナ問題が深刻化したこともエネルギー価格に影響があります。中東はサウジアラビアをはじめとする石油生産国が集まっているため、周辺地域で軍事衝突が起こるだけでも輸送ルートが確保しにくくなってしまうのです。
物価高騰の要因③円安の継続
2022年以降のドル円相場は、急速に円安が進行中。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が公表しているデータを見ると、顧客電信売相場(TTS)の年平均は2021年110.80 円→2022年132.43円→2023年141.56円→2024年152.58円と推移しており、円安が止まらない状況もはっきりと現れています。
主な原因はアメリカと日本の金利政策が異なること、日本経済が停滞していることなど。円安は、海外における価格競争で有利になるなどのメリットがありますが、その一方で輸入に頼る日用品や食品の価格は上がり、個人消費にまで多大な影響を及ぼします。
約25年ぶりとなった病院給食の値上げは、上記に挙げたような物価高騰の状況を考慮し、医療機関の負担を減らす目的があったようです。
病院給食の費用算出方法
病院給食の費用は、1994年から導入された「入院時食事療法費制度」に従って算定されています。制度発足当初は一日当たり1,900円と定められており、1997年には+20円の1,920円に値上げ。2006年に実施された診療報酬改定では、一日当たりから一食当たりの算定に変更されました。しかし、一食当たりの価格は640円だったため、一日当たりでは以前と変わらない1,920円のまま。その後2024年6月1日まで、病院給食の価格は据え置かれてきたのです。
病院給食の費用はまず、国が一食当たりの総額と自己負担額を決定。その二つの差額を入院時食事療養費として、医療保険から病院などに支給しています。現在の総額はこれまでの価格に+30円で、一食当たり670円です。一般所得者なら自己負担が490円で保険給付が180円、住民税非課税世帯なら自己負担が230円で保険給付が440円。住民税非課税に加え、所得が一定基準に満たない70歳以上なら自己負担は110円、保険給付が550円となります。
今回はこのような値上げが実現しましたが、物価高騰の影響はかなり大きく、病院給食の現状はまだまだ厳しいようです。続いて、実際の給食現場で行われている対策を見ていきましょう。
病院給食における物価高騰への対策
病院を含めたさまざまな給食現場では、物価高騰を乗り切るためにさまざまな対策をしているようです。株式会社エス・エム・エスが実施した「物価高騰による施設等の給食への影響調査(期間:2023年7月24日〜8月2日)」によると、調査対象施設の99.6%が食材の値上がりを実感しているとのこと。それに伴い、新たなメニューの開発や献立づくりも難航している施設が多いようです。以下に、物価高騰への具体的な対策をまとめてみました。
- 単価が高い食材を使わなくなった、もしくは使う回数が減った
- 肉や魚より安価な豆腐、大豆製品を使うようになった
- 揚げ物の回数を減らした
- ロスが出ないように発注数を調整している
- 安く仕入れるために業者を変更した
- 食材だけでなく、消耗品にも無駄がないか見直した
このように、現場ではコスト削減に向けた工夫が行われています。今のところ物価高騰の状況がすぐに改善される見込みはないため、病院給食に関しても引き続き何かしらの対策を続けていかなければならないでしょう。
病院給食のことならナリコマにおまかせください
値上げが実施されても、なお厳しい病院給食の現場。ナリコマでは、そんな現場のための献立サービスをご用意しております。慢性期・精神科病院には365日日替わりの「すこやか」、急性期・回復期病院には28日日替わりの「やすらぎ」がおすすめです。
現場の負担やコストを減らせるよう、どちらもクックチルを活用。セントラルキッチンから完全調理済み食品をお届けするので、再加熱や盛り付けなどの簡単な仕上げをするだけで提供できます。嚥下機能にあわせた食形態はもちろん、必要に応じて治療食にも展開可能。新しい形の病院給食をお探しの際は、ぜひナリコマにご相談ください。
コストや人員配置の
シミュレーションをしませんか?
導入前から導入後まで常にお客さまに寄り添うナリコマだからこそ、厨房の視察をしたうえでの最適解をご提案。
食材費、人件費、消耗品費などのコストだけでなく、導入後の人員削減について個別でシミュレーションいたします。
スムーズな導入には早めのシミュレーションがカギとなります。
まずはお問い合わせください。
こちらもおすすめ
クックチルに関する記事一覧
-
医療・介護施設のBCP策定ガイド!安心安全な施設運営のために
地震や台風などの自然災害は、いつどこで発生するかわかりません。特に、医療や介護を支える病院や施設においては、災害が発生してもその役割を止めることなく継続する必要があります。
停電や断水、物流の停止などによって、通常の施設運営が困難になるケースも少なくありません。こうした緊急時に備えるために欠かせないのがBCP(事業継続計画)です。BCPとは、災害や緊急事態が発生した場合でも、業務を継続・早期復旧させるための計画で、特に命を預かる医療・介護施設にとってBCPの策定はとても重要になってきます。
今回は、災害時における医療・介護施設が直面する課題や対策方法などについて詳しく解説していきます。いざという時に備え、今からできる準備を一緒に考えていきましょう。
-
給食業界における最大の課題!コスト高騰化を乗り切る解決策とは
近年は数多くの商品やサービスの値上げラッシュが続いており、多種多様な業界はもちろん、消費者にも大きな影響を及ぼしています。食品や日用品の買い出しで「高くなった」と実感している方は少なくないでしょう。値上げの主な理由は、生産費や人件費といった各種コストの高騰化。この件は、給食業界においても最大の課題として解決が求められています。
本記事では、今や身近なテーマともいえるコスト高騰化について解説。詳しい要因を見ながら、給食を必要としている施設の現状や具体的な解決策などをお伝えしていきます。ぜひ最後までお読みください。 -
患者満足度を高める病院食!見た目と栄養管理のバランスが生み出す魅力的な食事とは
「量が少ない」「おいしくない」などのイメージを持たれてしまいがちな病院食。もう栄養バランスのみを重視した病院食の提供をする時代は終わろうとしています。
昨今では、病院食が持つ力に注目されるようになり、「おいしい病院食」を提供する病院が増えてきました。病院食がおいしくなれば、食事だけでなく病院に対する満足度の向上にもつながります。
おいしい病院食の提供のために、私たちが今できることには何があるのでしょうか。
コストに関する記事一覧
-
進化する病院食!おいしい病院食はクックチルシステムで叶えられる
今もなお、ネガティブなイメージが付きまとう病院食。病院食は味気ないというイメージはもう昔の話です。現在では、患者の治療や回復を支えるため、栄養バランスだけでなく、おいしさや見た目に配慮した食事が提供されています。進化を遂げるおいしい病院食、その裏にある技術や取り組みに迫ります。
-
病院食の献立一週間!写真つきでわかりやすいクックチル献立!
残念ながら、患者さまの間で「病院食がまずい」という意見は少なくありません。今回は、病院食がなぜまずいと思われてしまうのか、という疑問と共に、クックチルの一週間の献立や、おいしさを追求したこだわりポイントをご紹介します。
-
病院給食は委託と直営どちらがおすすめ?
医療施設や介護施設などで絶対に必要なものといえば、毎日の食事。今回は、病院給食にスポットを当てた記事をお届けします。現在は調理師や管理栄養士などの人材不足、食材をはじめとするさまざまなコスト高騰に伴い、委託費の値上がりも懸念されています。そんな問題が浮上してきている中で、病院給食はどのように運営されているのでしょうか?
本記事では病院給食の現状について触れ、委託と直営それぞれのメリットやデメリットを解説。さらに、病院給食を効率よく運営するためのポイントやおすすめの調理・提供方法などをお伝えします。