近年続いている各種コストの高騰化は社会全体を揺るがしており、病院などの医療機関も大きな影響を受けています。高齢化が進む日本では今後さらに医療サービスの需要が高まるといわれているため、持続可能な医療提供体制を早急に整えなくてはなりません。しかし、病院経営はもともとコスト運用が難しく、赤字になってしまうケースも多いようです。
本記事は、そんな病院のコスト運用にかかわる「入院時食事療養費」をテーマにお届けします。2026(令和8)年度診療報酬改定では、これまで強く要請されてきた入院時食事療養費の値上げが実現しました。その背景にある社会情勢、改定後の詳細などをまとめて解説。記事後半では、病院の厨房運営コストを削減する具体的な対策についてもお伝えします。ぜひ最後までお読みいただき、コスト運用の参考になさってください。
目次
入院時食事療養費とは

入院時食事療養費は、被保険者が病気やけがで入院した際、食費の一部を公的医療保険が負担するしくみです。1994(平成6)年10月に創設された制度で、少しずつ改訂されながら現在まで運用が続いています。最も重要な目的は、医療機関が提供する食事の質を向上させること。運用当初は一日単位の金額設定でしたが、2006(平成18)年4月1日以降は一食単位に変更されています。
まず、厚生労働省が食事療養基準額を決定。患者である被保険者は所得区分に応じた金額を医療機関に支払い、残りの金額は公的医療保険から該当の医療機関に直接給付されます。
|
食事療養基準額 (食費の総額) |
− |
標準負担額 (患者の自己負担額) |
= |
入院時食事療養費 (保険給付額) |
このしくみは、通院・在宅療養の患者と入院している患者との間で、費用負担の公平性を保つことができます。通院・在宅療養における食費は、健康なときの日常生活でかかる食費と同様に扱われており、保険が適用されません。しかし、食費はもともと生活費の一部。入院している患者も、本来の日常生活における食費は全額自己負担です。つまり、入院中の食費をすべて保険適用にしてしまうと、通院・在宅療養の患者が不利益を被ることになります。こうした不公平な状況を生まないため、食材費などに相当する金額を標準負担額として設定するようになったのです。
入院時生活療養費とは何が違う?
入院時生活療養費は、入院時食事療養費と似た名称ですが、対象者や自己負担範囲が異なります。療養病棟は長期的な療養を目的としているため、食費だけでなく居住費(水道光熱費に相当する金額)の標準負担額も設定されています。入院時食事療養費と同様、区分に応じた金額を患者が支払い、残りの金額は医療機関に直接給付されるしくみです。
|
制度 |
入院時食事療養費 |
入院時生活療養費 |
|
対象者 |
・一般病棟、精神病棟に入院しているすべての患者 ・療養病棟に入院している65歳未満の患者 |
・療養病棟に入院している65歳以上の患者 |
|
自己負担範囲 |
食費のみ |
食費+居住費(※) |
(※)指定難病患者等に該当する場合、居住費の自己負担はありません。
入院時食事療養費の引き上げが必要な背景

冒頭でお伝えした通り、近年はコストの高騰化が急激に進み、病院経営を圧迫しています。一般社団法人日本病院会、公益社団法人全日本病院協会、一般社団法人日本医療法人協会、公益社団法人日本精神科病院協会の4団体が合同で行った「病院経営定期調査」(2025年度の有効回答数:1,629病院)では、その厳しい現状が明らかになっています。
二年連続で医業利益と経常利益を比較したデータでは、赤字病院の割合が大きく増加しています。医業収益をみると、2023年度は23億5,641万円で、2024年度は24億2,137万円。収益増でありながら赤字が多い理由は、支出も増えているからです。医業費用をみると、2023年度は25億1,469万円でしたが、2024年度は26億181万に跳ね上がっています。内訳として明記されている材料費、給与費、委託費、設備関係費、研究研鑽費、経費(水道光熱費など)といった項目は、すべて前年度よりも増加。つまり、全体的なコスト増大をカバーできるだけの収益とはいえないのです。
|
医業損益の年度比較 |
2023年度 |
2024年度 |
|
|
医業利益 |
黒字(+)病院 |
29.2% |
25.4% |
|
赤字(―)病院 |
70.8% |
74.6% |
|
|
100床あたりの医業利益 |
−1億5,828万円 |
−1億8,044万円 |
|
|
経常利益 |
黒字(+)病院 |
47.9% |
35.0% |
|
赤字(―)病院 |
52.1% |
65.0% |
|
|
100床あたりの経常利益 |
−2,862万円 |
−8,102万円 |
|
厨房運営に影響する食材費や水道光熱費の高騰
入院時食事療養費が引き上げられた主な理由は、食材費や水道光熱費の高騰です。病院における食事は治療の一環として扱われており、厨房運営コストが増大しても提供し続けなくてはなりません。しかし、食事療養基準額は国が定めるため、一般的な飲食店のように価格転嫁することはできないのです。
以下に、国が公表している統計資料「消費者物価指数の動向」から「食料」「水道・高熱」の項目を一部抜粋しました。指数は2020年を基準としており、コストが高騰し続けている近年の流れがみてとれます。こうした状況が病院の厨房運営に影響し、入院時食事療養費の引き上げを求める声が強まったといえるでしょう。
|
過去10年間の 消費者物価指数 |
食料 |
水道・高熱 |
|
2016年 |
96.2 |
93.9 |
|
2017年 |
96.8 |
96.4 |
|
2018年 |
98.2 |
100.2 |
|
2019年 |
98.7 |
102.5 |
|
2020年 |
100.0 |
100.0 |
|
2021年 |
100.0 |
101.3 |
|
2022年 |
104.5 |
116.3 |
|
2023年 |
112.9 |
108.5 |
|
2024年 |
117.8 |
112.8 |
|
2025年 |
125.8 |
116.9 |
2026年度診療報酬改定でどう変わる?

2026(令和8)年度診療報酬改定では、食事療養基準額が40円引き上げられています。下表は、入院時食事療養(I)を算定する医療機関の基本的なケースについてまとめたものです。流動食のみを提供する場合、引き上げ後の食事療養基準額は665円となっています。また、入院時食事療養(II)を算定する医療機関においては、流動食のみの提供が550円で、それ以外は596円となっています。
ちなみに、入院時食事療養(I)の算定は厚生労働省が定めるさまざまな要件を満たし、地方厚生局への申請を行った医療機関に限られています。そのほかの医療機関は入院時食事療養(II)を算定することになります。
|
食事療養基準額 |
現行 |
引き上げ額 |
2026年 6月1日〜 |
|
690円 |
+40円 |
730円 |
|
|
標準負担額 |
|||
|
一般所得者 |
510円 |
+40円 |
550円 |
|
住民税非課税世帯 |
240円 |
+30円 |
270円 |
|
住民税非課税世帯かつ 所得が一定に満たない70歳以上 |
110円 |
+20円 |
130円 |
病院の厨房運営コストを削減するには

入院時食事療養費が引き上げられても、それだけで厨房運営コストの問題が解決するわけではありません。高騰が続いている食材費や水道光熱費が今後どのように変化していくのか、確実に予測するのは難しいところです。さらに、2025年はすべての都道府県において最低賃金が1,000円超になるなど、人件費の増大につながる動きもみられました。
こうした情勢を考慮すると、病院が安定的に食事を提供し続けるには、できる限りコストを削減することが重要でしょう。厨房運営コストを削減するポイントとしては、次のような点が挙げられます。
①食品在庫管理の徹底
食品ロスを防ぐため、日常的に在庫管理を徹底し、仕入れ量を調整しましょう。予備の在庫を抱える場合は賞味期限・消費期限が長い食品にするなど、ちょっとした工夫がコスト削減につながります。
②献立や調理工程の見直し
原価が高いメニューの変更や廃止も効果的です。安い材料が使えるメニューを取り入れたり、時短や省力化になる自動調理器を導入したりすることで、食材費や水道光熱費を抑えることができます。
③下処理済み食材や完全調理済み食品の活用
水道光熱費を抑えるなら、カット済み食材や熱処理済み食材を仕入れるのもいいでしょう。また、クックチルやクックフリーズなどの完全調理済み食品を活用すると、調理工程がかなり簡略化されます。水道光熱費だけでなく、人員削減(=人件費削減)にも効果的です。
④【委託の場合】契約内容の見直し
厨房業務を委託している場合は、契約内容を見直してみましょう。全面委託の契約であれば、部分委託に変更するだけでも大きなコスト削減になります。もちろん、ほかの業者・サービスへの切り替えを検討するのもいいでしょう。
厨房運営に関するお悩み・ご相談はぜひナリコマへ

今回は、2026年度診療報酬改定で引き上げられた入院時食事療養費について詳しくお伝えしました。ナリコマでは、弊社セントラルキッチンからお届けする完全調理済み食品を活用し、「直営支援型厨房運営」をご提案しております。コスト削減はもちろん、現場の省力化や省人化、食事提供体制の安定化などのメリットも。厨房運営に関するお悩み・ご相談がありましたら、ぜひナリコマにおまかせください。
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