多くの病院では昼夜さまざまな職種のスタッフが働いており、患者をケアしています。治療している疾患の種類や症状の程度、服薬履歴、アレルギーの有無、家族構成など、患者の状態・状況は千差万別。それぞれの事情を考慮し、患者にとって最適なケアをしなければなりません。
今回お届けする記事のテーマは「病院における栄養・食事管理」です。関連性の高い多職種連携(チーム医療体制)、診療報酬の加算制度などについてもお伝えします。ぜひ最後までお読みいただき、参考になさってください。
目次
患者の状態に大きく影響する栄養・食事管理

入院患者に提供する食事は「病院給食」「病院食」「入院食」などと呼ばれ、治療の一環として扱われます。その主な役割として、以下のような点が挙げられます。
役割①栄養状態を整え、治癒・回復をサポートする
食事は健康を支える大事な要素の一つです。入院患者に限った話ではありませんが、規則正しい食生活を送り、栄養を十分にとることで心身の不調や生活習慣病の予防につながります。病院給食の目的は、治癒・回復のために栄養状態を整えること。入院中の体力を維持したり、症状の悪化を防いだりする役割を担っています。
基本的に、栄養管理において問題がなければ一般食が提供されます。一方で、「栄養が十分にとれていない」「術後のため通常の食事ができない」「嚥下・摂食機能が低下している」「食物アレルギーがある」など、治療上の理由がある場合には特別治療食が提供されます。特別治療食の種類はさまざまで、栄養価(例:カロリー、塩分、脂質、たんぱく質など)の調整、食形態(例:ミキサー食、ゼリー食、ムース食、ペースト食、流動食など)の変更、アレルゲンとなる食材の除去といった細かな対応が必要です。
役割②規則正しい食生活の手本となる
病院給食は、患者に規則正しい食生活を続けてもらうための手本でもあります。予防医学の視点からみると、非常に重要な役割といえるでしょう。治療が終了した入院患者は自宅などに戻ります。しかし、食生活が乱れて栄養状態が悪くなれば、疾患が再発したり、別の健康リスクが高まったりすることも考えられるのです。そのため、患者本人に食生活の重要性を理解してもらわなければなりません。
役割③入院患者のQOLを向上させる
非日常的な入院生活は、患者にとってストレスを感じることもあります。ストレスが原因で何らかの不調が生じ、治療・回復に悪影響を与えるかもしれません。前述した役割①とも関連しますが、病院給食によって栄養状態を整えることが大きな意味を持ちます。
また、病院給食がおいしく、毎日の楽しみになれば、精神的・心理的なストレスの軽減も期待できます。医療分野において患者のQOL(生活の質)向上が重視されていることを踏まえれば、このような栄養・食事管理の不可欠性がみえてくるでしょう。
栄養ケアを支える食事提供のポイント

ここまでお伝えしているように、患者の栄養管理は非常に重要な業務の一つです。では、栄養ケアの支えとなる食事提供のポイントをみていきましょう。
患者自身の「食べたい」を引き出す献立
病院給食に対して「おいしくない」「まずい」といった悪いイメージを持つ方も少なくありません。健康状態の良し悪しにかかわらず、まずそうな食事よりも、おいしそうな食事のほうが魅力を感じるのは人の本能的な部分でしょう。病院給食が前述したような役割を果たすには、まず、患者にきちんと食べてもらう必要があります。その前提条件を整えるために重要なのが、食欲を刺激する献立作成です。
①献立のバリエーションを増やす
病院給食は、一定期間の献立を作成し、サイクル化していることも多いでしょう。しかし、似たような献立が繰り返されると、患者が飽きて食べなくなってしまうこともあります。例えば、主食をごはんからパンにするだけでも印象は大きく変わります。患者にとって毎日の食事が楽しみになるよう、献立のバリエーションを増やしましょう。
②患者の声を集めて献立に反映する
食事満足度アンケートを実施し、患者の声を聞くことも大きなポイントです。すべての意見を採用するのは難しいところですが、実現できそうなことがあれば、献立に反映するといいでしょう。患者が望む要素を取り入れることで、食欲増進や喫食率の上昇につながります。
③栄養価とおいしさのバランスがとれた献立
栄養管理はしっかりと行わなければなりませんが、そのために食事のおいしさが損なわれてしまうと患者が食べなくなり、結果的に栄養状態の悪化やQOLの低下を招くことになります。
食形態の変更による誤嚥・低栄養リスクへの対策
嚥下・摂食機能が低下した患者には、食べやすさや誤嚥防止のため、食形態を変更した嚥下調整食(嚥下訓練食)が提供されます。ただし、患者の状態に適した食形態を選択し、丁寧に調理することが重要です。また、嚥下調整食は水分やとろみ成分を加えるため、通常の食事と比べ栄養価が下がりやすいとされています。低栄養リスクへの対策として、栄養補助食品なども活用するといいでしょう。
嚥下調整食の詳しい対応方法は、多くの病院が「日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021」を参考にしています。栄養補助食品については、スマイルケア食やユニバーサルデザインフードの活用も推奨されています。
多職種連携が必須!栄養ケアを行うチーム医療体制とは

多職種連携は、異なる職種が協力して業務に当たる体制のこと。医療分野においてはチーム医療と呼ばれており、ケアの目的にあわせてメンバーが編成されます。メンバーは専門的な知識・技術を生かし、患者の早期回復や退院をサポート。細やかなケアを提供するには、多職種連携をスムーズに行わなければなりません。以下に、栄養・食事管理にかかわる主な職種、チーム医療の例をまとめました。
栄養・食事管理にかかわる主な職種
- 医師
- 看護師
- 薬剤師
- 管理栄養士
- 歯科医師
- 歯科衛生士
- 言語聴覚士
- 作業療法士
- 理学療法士
- 救急救命士
- 診療放射線技師
- 臨床検査技師
- 臨床心理士
- 臨床工学技士
- 医療ソーシャルワーカー など
栄養・食事管理にかかわる主なチーム医療
- 栄養サポートチーム(NST)
- 摂食・嚥下チーム
- 糖尿病チーム
- 呼吸ケアサポートチーム
- 褥瘡管理チーム
- 緩和ケアチーム など
こうしたチーム医療による栄養・食事管理は、外来・在宅患者に対して行うケースもあります。入院患者と同様、栄養状態の改善やQOLの向上につながるケアを実施します。
病院が算定できる栄養ケア関連の加算

診療報酬は病院の経営を支える大事な要素の一つです。栄養・食事管理にかかわる項目として、以下のようなものが挙げられます。
- 外来栄養食事指導料
- 入院栄養食事指導料
- 訪問栄養食事指導料
- 退院後訪問栄養食事指導料
- 入院時食事療養
- 入院時生活療養
- 栄養情報連携料 など
こうした基本項目のほか、算定条件を満たし、加算をとることで増収につながります。本項目では、栄養・食事管理に関する主な加算(令和8年6月現在)をいくつかピックアップし、概要を簡単にまとめてみました。
診療報酬全体にいえることですが、算定条件は細かく定められています。同時に算定できないものや条件によって点数が異なるものも多いため、かなり複雑化しています。事前にしっかりと確認し、理解を深めておくことが重要です。
栄養サポートチーム加算
前述したチーム医療と関連する加算です。医師・看護師・薬剤師・管理栄養士などを主体とする栄養サポートチーム(NST)を設置していることが前提となります。ここまでお伝えしているように、患者の栄養・食事管理が非常に重要な業務であることが、加算制度の背景にあります。
入院栄養管理体制加算
特定機能病院入院基本料に付随する加算です。入院患者の栄養管理体制を整える目的があります。専従の管理栄養士を常勤で配置することが求められますが、令和8年度診療報酬改定において専従条件が緩和。病棟の栄養管理業務に影響が出ない範囲であれば、退院した患者の外来栄養食事指導などを行うことも可能になりました。
リハビリテーション・栄養・口腔連携加算
急性期一般入院基本料・特定機能病院入院基本料・専門病院入院基本料を算定する病棟、地域包括医療病棟、地域包括ケア病棟を対象とした加算です。リハビリと栄養ケア、口腔ケアが一体的に行える体制づくりを推進する目的があります。令和8年度診療報酬改定では、より多くの病院が体制を整えられるよう、算定条件が緩和されています。
特別食加算
入院時食事療養に付随する加算です。味や栄養価を充実させ、食事の安全性・質を上げる目的があります。疾患にあわせて提供する腎臓食や糖尿食などが対象でしたが、令和8年度診療報酬改定により、嚥下調整食も新たに評価されるようになりました。
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