高齢化が急激に進む近年の日本では、今後、医療・介護福祉分野のニーズが高まっていくとみられています。そうした背景を受け、特に重視されているのが、医療・介護福祉サービス提供体制の安定化です。政府は、将来的にすべての国民が良質な医療・介護福祉サービスを受けられるよう、地域医療構想や地域包括ケアシステムを推進しています。
病院・介護福祉施設の食事提供体制を整えることもまた、サービスの質を向上させる取り組みの一つ。今回の記事は、患者や利用者への食事提供に欠かせない嚥下調整食について解説します。嚥下調整食の重要性がわかる事故事例、基準となる分類・コード、類似する規格などをまとめて紹介。嚥下調整食の理解度向上、病院・介護福祉施設における事故防止などにお役立てください。
目次
事故事例からみる嚥下調整食の重要性

嚥下調整食は、嚥下機能(食べ物を飲み込む力)や咀嚼機能(食べ物をかむ力)が低下している方に適した食事のことです。医療の現場では嚥下訓練食や嚥下食、介護福祉の現場では介護食などと呼ばれることもあります。嚥下・咀嚼機能のレベルにあわせ、食材の形状・とろみ・大きさ・かたさなどを調整。無理なく食べられるようにすることで、食事中の事故防止につながります。
食事中に発生しやすい「誤嚥・窒息」
食事を提供する病院・介護福祉施設では、次のような事故のリスクがあります。
|
食事中の事故事例 |
概要 |
|
誤嚥・窒息 |
食べ物を詰まらせ、激しく咳き込んでしまうケースです。気道が塞がれると呼吸困難に陥り、顔面紅潮やチアノーゼが出現したり、意識を失ったりします。 |
|
アレルゲンの摂取 |
食物アレルギーのある患者や利用者が気づかないままアレルゲンを口にしてしまうケースです。 |
|
異物混入 |
調理中にビニール、ゴムなどの異物が混入し、そのまま配膳されてしまうケースです。 |
|
異食 |
患者や利用者が食べ物以外のものを口にしてしまうケースです。認知症の方によくみられます。 |
|
食事内容の指示・調理・配膳などのミス |
食事内容の指示が間違っていたり、調理時に正しく反映されなかったりするケースです。配膳先を間違えてしまうケースもあります。 |
いずれの事故も「患者や利用者の食事に関する情報が共有できていなかった」「食事中の介助や見守りが不十分だった」など、さまざまな要因が考えられます。しかし、場合によっては患者や利用者の命が危険にさらされるため、食事提供体制の安全性確保は非常に重要なポイントです。
上記に挙げた中でも、誤嚥・窒息は発生件数が多い事故です。特に、嚥下機能や咀嚼機能が低下している方の食事ではリスクが高いといえるでしょう。令和6年の「人口動態統計」によると、誤嚥性肺炎は死因順位の第6位に入っています。つまり、嚥下調整食には誤嚥・窒息を防ぎ、死亡リスクを下げるという大きな役割があるのです。

では、具体的な事故事例を2件、ご紹介します。
◆誤嚥・窒息の事故事例①
特別養護老人ホームのショートステイ利用者だったAさん(75歳男性/軽度認知症、事故の後遺症あり)には、嚥下障害がありました。そのことは書類に記載されていたにもかかわらず、施設職員が確認せず、おでんのこんにゃくやはんぺんを提供。結果として、窒息死に至りました。本事例は、誤嚥の可能性を考慮すべきだったとして、施設側に過失が認められています。
◆誤嚥・窒息の事故事例②
神経科の入院患者Bさん(20代男性/デュシェンヌ型筋ジストロフィー)は、肺炎治療後に一般食を摂取。看護師が食事介助をしていたところ、突然、顔面紅潮がみられました。この誤嚥から呼吸不全状態に陥り、人工呼吸器管理が必要なほど症状が悪化してしまった事例があります。
Bさんは1週間前に誤嚥性肺炎を起こしていました。しかし、本人の「食べたい」意欲があることと、誤嚥の兆候がみられなかったことを理由に、とろみ形態の食事から一般食に変更されました。看護師は誤嚥を心配していましたが、食形態を変更した医師から意見が求められることはなかったそうです。本事例からは、多職種連携や食形態の変更を確実に行うことの重要性がうかがえます。
嚥下調整食の分類・コードについて解説

嚥下調整食(食事/とろみ)の基準となる分類・コードは、日本摂食嚥下リハビリテーション学会が公表しています。食事は5段階、とろみは3段階に分類。食事については、項目によってさらに細かく分類されています。
| 学会分類2021(食事)早見表 | ||||||||
| コード | 名称 | 形態 | 目的・特色 | 主食の例 | 必要な咀嚼能力 | 他の分類との対応 | ||
| 0 | j | 嚥下訓練食品 | ◆重度の症例に対する評価・訓練用 ◆少量をすくってそのまま丸呑み可能 ◆残留した場合にも吸引が容易 ◆たんぱく質含有量が少ない |
◆重度の症例に対する評価・訓練用 ◆少量をすくってそのまま丸呑み可能 ◆残留した場合にも吸引が容易 |
– | (若干の送り込み能力) | ◆嚥下食ピラミッド LO ◆えん下困難者用食品許可基準I |
|
| t | 嚥下訓練食品 0t | ◆均質で、付着性・凝集性・かたさ配慮にしたゼリー ◆離水が少なく、スライス状にすくうことが可能なもの ◆均質で、付着性・凝集性・かたさ配慮にしたとろみ水 (原則的には、中間のとろみあるいは濃いとろみのどちらかが適している) |
◆重度の症例に対する評価・訓練用少量ずつ飲むことを想定 ◆ゼリー丸呑みで誤嚥したりゼリーが口中で溶けてしまう場合 |
– | (若干の送り込み能力) | ◆嚥下食ピラミッド L0一部の(とろみ水) | ||
| 1 | j | 嚥下調整食1j | ◆均質で、付着性、凝集性、かたさ、離水に配慮したゼリー・プリン・ムース状のもの | ◆口腔外で既に適切な食塊状となっている (少量をすくってそのまま丸呑み可能) ◆送り込む際に多少意識して口蓋に舌を押しつける必要がある ◆1jに比し表面のざらつきあり |
おもゆゼリー、ミキサー粥のゼリーなど | (若干の食塊保持と送り込み能力) | ◆嚥下食ピラミッド L1-L2 ◆えん下困難者用食品許可基準Ⅱ ◆UDF 区分 かまなくてもよい(ゼリー状) |
|
| 2 | 1 | 嚥下調整食2-1 | ◆ビューレ・ペースト・ミキサー食など、均質でなめらかで、べたつかず、まとまりやすいもの ◆スプーンですくって食べることが可能なもの |
◆口腔内の簡単な操作で食塊状となるもの (咽頭では残留、誤嚥をしにくいように配慮したもの) |
「粒がなく、付着性の低いペースト状のおもゆや粥 | (下顎と舌の運動による食塊形成能力および食塊保持能力) | ◆嚥下食ピラミッド L3 ◆えん下困難者用食品許可基準Ⅲ ◆UDF 区分 かまなくてもよい |
|
| 2 | 嚥下調整食2-2 | ◆ビューレ・ペースト・ミキサー食などで、べたつかず、まとまりやすいもので不均質なものも含む ◆スプーンですくって食べることが可能なもの |
◆口腔内の簡単な操作で食塊状となるもの (咽頭では残留、誤嚥をしにくいように配慮したもの) |
やや不均質(粒がある)でもやわらかく、離水もなく付着性も低い粥類 | (下顎と舌の運動による食塊形成能力および食塊保持能力) | ◆嚥下食ピラミッド L3 ◆えん下困難者用食品許可基準ⅡⅢ ◆UDF 区分 かまなくてもよい |
||
| 3 | 嚥下調整食3 | ◆形はあるが、押しつぶしが容易、食塊形成や移送が容易、咽頭でばらけず嚥下しやすいように配慮されたもの多量の離水がない | ◆舌と口蓋問で押しつぶしが可能なもの ◆押しつぶしや送り込みの口腔操作を要し(あるいはそれらの機能を賦活し)、 かつ誤嚥のリスク軽減に配慮がなされているもの |
離水に配慮した粥など | 舌と口蓋間の押しつぶし能力以上 | ◆嚥下食ピラミッド L4 ◆UDF 区分 舌でつぶせる |
||
| 4 | 嚥下調整食4 | ◆かたさ・ばらけやすさ・貼りつきやすさなどのないもの ◆箸やスプーンで切れるやわらかさ |
◆誤嚥と窒息のリスク配慮をして素材と調理方法を選んだもの ◆歯がなくても対応可能だが、上下の歯槽堤間で押しつぶすあるいはすりつぶすことが必要で舌と口蓋問で押しつぶすことは困難 |
軟飯・全粥など | 上下の歯槽堤間の押しつぶし能力以上 | ◆嚥下食ピラミッド L4 ◆UDF 区分 舌でつぶせる および ◆UDF 区分 歯ぐきでつぶせる および ◆UDF 区分 容易にかめるの一部 |
||
| 学会分類2021(とろみ)早見表 | |||
| 項目 |
段階1 薄いとろみ 【II-3項】 |
段階2 中間のとろみ 【II-2項】 |
段階3 濃いとろみ 【II-4項】 |
| 英語表記 | Mildly thick | Moderately thick | Extremely thick |
|
性状の説明 (飲んだとき) |
「drink」するという表現が適切な程度の口に因ると口腔内に広がる液体の種類・味や温度によっては、とロミが付いていることがあまり気にならない場合もある飲み込む際に大きな力を要しないストローで容易に吸うことができる |
明らかにとろみがあることを感じ、かつ「drink」するという表現が適切なとろみの程度口腔内での動態はゆっくりですぐには広がらない舌の上でまとめやすいストローで吸うのは抵抗がある |
明らかにとろみが付いていて、まとまりがよい送り込むのに力が必要スプーンで「eat」するという表現が適切なとろみの程度ストローで吸うことは困難 |
|
性状の説明 (見たとき) |
スプーンを傾けるとすっと流れ落ちるフォークの歯の間から素早く流れ落ちるカップを傾け、流れ出た後には、うっすらと跡が残程度の付着 |
スプーンを傾けるととろとろと流れるフォークの歯の間からゆっくりと流れ落ちるカップを傾け、流れ出た後には、全体にコーティングしたように付着 |
スプーンを傾けても、形状がある程度保たれ、流れにくいフォークの歯の間から流れ出ないカップを傾けても流れ出ない(ゆっくりと塊となって落ちる) |
|
粘度 (mPa・s) 【II-5項】 |
50-150 |
150-300 |
300-500 |
|
LST値 (mm) 【II-6項】 |
36-43 |
32-36 |
30-32 |
|
シリンジ法による 残留量 (ml) 【II-7項】 |
2.2-7.0 |
7.0-9.5 |
9.5-10.0 |
※「日摂食嚥下リハ会誌25(2):135–149, 2021」または日本摂食嚥下リハ学会HPホームページ「嚥下調整食学会分類2021」(下記URL)を必ずご参照ください。

嚥下調整食の基準が適用されない場合のデメリット
先にご紹介した「学会分類2021」のような基準は、病院や介護福祉施設全体で共通して使うことができます。現場における嚥下調整食の対応が標準化されるのはもちろん、患者や利用者にとっても食の安全性向上・品質安定化というメリットが得られるでしょう。反対に、病院や介護福祉施設において嚥下調整食の基準がない、もしくは適用されなかった場合は次のようなデメリットが生じてしまいます。
①誤嚥・窒息のリスクが高くなる
ここまでお伝えしてきたように、嚥下機能や咀嚼機能を考慮して提供される嚥下調整食は、誤嚥・窒息のリスクを低下させます。つまり、患者や利用者に適した嚥下調整食でなければ、リスクは高くなるのです。これは、大切な命を預かる病院や介護福祉施設にとって非常に大きなデメリットといえるでしょう。
②食欲不振や低栄養を招く
嚥下調整食に関して適切な対応ができていないと、患者や利用者のストレス増加につながります。「食べづらい」「飲み込みづらい」などのネガティブな印象を持つと、食べる量が減り、低栄養に陥ってしまうかもしれません。高齢者の低栄養には、特に注意が必要です。栄養が不十分なまま過ごしていると、フレイルや要介護へ移行してしまうこともあります。
③正確な情報が共有されない
分類・コードの詳細をみても分かるように、嚥下調整食の対応は複雑になりがちです。曖昧な対応をしていると情報共有がしづらくなり、職員同士の連携もうまくいかなくなります。基準を適用していれば、患者や利用者が転院したり、担当職員が変わったりしても、正確な情報共有ができるでしょう。
嚥下調整食とは違う?スマイルケア食とUDFの区分

スマイルケア食とUDF(ユニバーサルデザインフード)も、嚥下機能や咀嚼機能が低下している方に適した食事・食品の基準です。医療・介護福祉の現場で活用される嚥下調整食の学会分類とは少し異なり、市販の介護食品や栄養補助食品などに表示されています。では、どのように区分されているのかみておきましょう。
スマイルケア食
スマイルケア食は、介護食品を選びやすくするために農林水産省が定めた基準です。青・黄・赤の識別マークがあり、主な概要は以下の通り。これらの識別マークは、食品製造企業や販売企業が利用申請し、農林水産省の許諾を得なければ表示することができません。
|
分類 |
概要 |
|||
|
|
青 |
かむこと・飲み込むことに問題はないものの、健康維持上栄養補給を必要とする方向けの食品 |
||
|
|
黄 |
5 |
容易にかめる食品 |
かむことに問題がある方向けの食品 |
|
4 |
歯ぐきでつぶせる食品 |
|||
|
3 |
舌でつぶせる食品 |
|||
|
2 |
かまなくてよい食品 |
|||
|
|
赤 |
2 |
少し咀嚼して飲み込める性状のもの |
飲み込むことに問題がある方向けの食品 |
|
1 |
口の中で少しつぶして飲み込める性状のもの |
|||
|
0 |
そのまま飲み込める性状のもの |
|||
※さらに詳しい情報については、農林水産省の該当ページをご確認ください。
UDF(ユニバーサルデザインフード)
UDF(ユニバーサルデザインフード)は、日本介護食品協議会によって定められた基準です。レトルト食品や冷凍食品などのほか、飲み物・食べ物に混ぜて使うとろみ調整食品にも表示されています。基本となる区分は以下の通りです。
|
区分 |
容易にかめる |
歯ぐきでつぶせる |
舌でつぶせる |
かまなくてよい |
|
|
かむ力の目安 |
かたいものや大きいものはやや食べづらい |
かたいものや大きいものは食べづらい |
細かくてやわらかければ食べられる |
固形物は小さくても食べづらい |
|
|
飲み込む力の目安 |
普通に飲み込める |
ものによっては飲み込みづらいことがある |
水やお茶が飲み込みづらいことがある |
水やお茶が飲み込みづらい |
|
|
かたさの目安 |
・ごはん〜やわらかごはん ・厚焼き卵 ・やわらか肉じゃが |
・やわらかごはん〜全がゆ ・だし巻き卵 ・具材小さめやわらか肉じゃが |
・全がゆ ・スクランブルエッグ ・具材小さめさらにやわらか肉じゃが |
・ペーストがゆ ・やわらかい茶わん蒸し(具なし) ・ペースト肉じゃが |
|
|
物性規格 |
かたさ 上限値 (N/㎡) |
5×10⁵ |
5×10⁴ |
ゾル:1×10⁴ ゲル:1×10⁴ |
ゾル:3×10³ ゲル:5×10³ |
|
粘度 下限値 (mPa・s) |
|
|
ゾル:1500 |
ゾル:1500 |
|
|
【UDF拡張規格】 そのままの状態では「容易にかめる」〜「かまなくてよい」のかたさに当てはまらないが、水分や温度など食事の際に条件が加わることで、各区分のいずれかと同様のかたさ、食べやすさとなる食品 |
|||||
※とろみ調整食品など、さらに詳しい情報については、日本介護食品協議会の該当ページをご確認ください。
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