嚥下調整食は、嚥下機能(飲み込む力)や咀嚼機能(かむ力)が低下している方に適した食事のこと。主に病院や介護福祉施設において提供されています。今回の記事では、嚥下調整食の役割や提供時の注意点、現場で発生する負担などを詳しく解説。病院や介護福祉施設での対応が難しく、外注する場合の選択肢についてもまとめてお伝えします。ぜひ最後までお読みいただき、嚥下調整食対応の参考になさってください。
目次
患者や利用者の食を支える嚥下調整食

患者や利用者の状態には個人差があるため、嚥下調整食は一律に対応することができません。嚥下機能や咀嚼機能が低下している方に不適切な食事を提供した場合、誤嚥(または誤嚥による窒息)を起こす恐れがあります。そういった事故を防ぐためには、患者や利用者それぞれの状態にあわせ、形態やとろみなどを丁寧に調整した食事を提供する必要があるのです。
しかし、提供するたびに内容や品質が異なるようでは、「食の安全を守る」という嚥下調整食本来の役割を果たせなくなってしまいます。そのため、多くの病院や介護福祉施設では、日本摂食嚥下リハビリテーション学会による「嚥下調整食学会分類2021」が活用されているのです。「嚥下調整食学会分類2021」では嚥下調整食(食事・とろみ)が複数のコードに分類されており、形態や目的・特色などが詳しく説明されています。これを基準として採用することで、調理の担当者が変わったり、病院や施設を移ったりした際にも、患者や利用者の個別情報が共有しやすくなります。
| 学会分類2021(食事)早見表 | ||||||||
| コード | 名称 | 形態 | 目的・特色 | 主食の例 | 必要な咀嚼能力 | 他の分類との対応 | ||
| 0 | j | 嚥下訓練食品 | ◆重度の症例に対する評価・訓練用 ◆少量をすくってそのまま丸呑み可能 ◆残留した場合にも吸引が容易 ◆たんぱく質含有量が少ない |
◆重度の症例に対する評価・訓練用 ◆少量をすくってそのまま丸呑み可能 ◆残留した場合にも吸引が容易 |
– | (若干の送り込み能力) | ◆嚥下食ピラミッド LO ◆えん下困難者用食品許可基準I |
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| t | 嚥下訓練食品 0t | ◆均質で、付着性・凝集性・かたさ配慮にしたゼリー ◆離水が少なく、スライス状にすくうことが可能なもの ◆均質で、付着性・凝集性・かたさ配慮にしたとろみ水 (原則的には、中間のとろみあるいは濃いとろみのどちらかが適している) |
◆重度の症例に対する評価・訓練用少量ずつ飲むことを想定 ◆ゼリー丸呑みで誤嚥したりゼリーが口中で溶けてしまう場合 |
– | (若干の送り込み能力) | ◆嚥下食ピラミッド L0一部の(とろみ水) | ||
| 1 | j | 嚥下調整食1j | ◆均質で、付着性、凝集性、かたさ、離水に配慮したゼリー・プリン・ムース状のもの | ◆口腔外で既に適切な食塊状となっている (少量をすくってそのまま丸呑み可能) ◆送り込む際に多少意識して口蓋に舌を押しつける必要がある ◆1jに比し表面のざらつきあり |
おもゆゼリー、ミキサー粥のゼリーなど | (若干の食塊保持と送り込み能力) | ◆嚥下食ピラミッド L1-L2 ◆えん下困難者用食品許可基準Ⅱ ◆UDF 区分 かまなくてもよい(ゼリー状) |
|
| 2 | 1 | 嚥下調整食2-1 | ◆ビューレ・ペースト・ミキサー食など、均質でなめらかで、べたつかず、まとまりやすいもの ◆スプーンですくって食べることが可能なもの |
◆口腔内の簡単な操作で食塊状となるもの (咽頭では残留、誤嚥をしにくいように配慮したもの) |
「粒がなく、付着性の低いペースト状のおもゆや粥 | (下顎と舌の運動による食塊形成能力および食塊保持能力) | ◆嚥下食ピラミッド L3 ◆えん下困難者用食品許可基準Ⅲ ◆UDF 区分 かまなくてもよい |
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| 2 | 嚥下調整食2-2 | ◆ビューレ・ペースト・ミキサー食などで、べたつかず、まとまりやすいもので不均質なものも含む ◆スプーンですくって食べることが可能なもの |
◆口腔内の簡単な操作で食塊状となるもの (咽頭では残留、誤嚥をしにくいように配慮したもの) |
やや不均質(粒がある)でもやわらかく、離水もなく付着性も低い粥類 | (下顎と舌の運動による食塊形成能力および食塊保持能力) | ◆嚥下食ピラミッド L3 ◆えん下困難者用食品許可基準ⅡⅢ ◆UDF 区分 かまなくてもよい |
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| 3 | 嚥下調整食3 | ◆形はあるが、押しつぶしが容易、食塊形成や移送が容易、咽頭でばらけず嚥下しやすいように配慮されたもの多量の離水がない | ◆舌と口蓋問で押しつぶしが可能なもの ◆押しつぶしや送り込みの口腔操作を要し(あるいはそれらの機能を賦活し)、 かつ誤嚥のリスク軽減に配慮がなされているもの |
離水に配慮した粥など | 舌と口蓋間の押しつぶし能力以上 | ◆嚥下食ピラミッド L4 ◆UDF 区分 舌でつぶせる |
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| 4 | 嚥下調整食4 | ◆かたさ・ばらけやすさ・貼りつきやすさなどのないもの ◆箸やスプーンで切れるやわらかさ |
◆誤嚥と窒息のリスク配慮をして素材と調理方法を選んだもの ◆歯がなくても対応可能だが、上下の歯槽堤間で押しつぶすあるいはすりつぶすことが必要で舌と口蓋問で押しつぶすことは困難 |
軟飯・全粥など | 上下の歯槽堤間の押しつぶし能力以上 | ◆嚥下食ピラミッド L4 ◆UDF 区分 舌でつぶせる および ◆UDF 区分 歯ぐきでつぶせる および ◆UDF 区分 容易にかめるの一部 |
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| 学会分類2021(とろみ)早見表 | |||
| 項目 |
段階1 薄いとろみ 【II-3項】 |
段階2 中間のとろみ 【II-2項】 |
段階3 濃いとろみ 【II-4項】 |
| 英語表記 | Mildly thick | Moderately thick | Extremely thick |
|
性状の説明 (飲んだとき) |
「drink」するという表現が適切な程度の口に因ると口腔内に広がる液体の種類・味や温度によっては、とロミが付いていることがあまり気にならない場合もある飲み込む際に大きな力を要しないストローで容易に吸うことができる |
明らかにとろみがあることを感じ、かつ「drink」するという表現が適切なとろみの程度口腔内での動態はゆっくりですぐには広がらない舌の上でまとめやすいストローで吸うのは抵抗がある |
明らかにとろみが付いていて、まとまりがよい送り込むのに力が必要スプーンで「eat」するという表現が適切なとろみの程度ストローで吸うことは困難 |
|
性状の説明 (見たとき) |
スプーンを傾けるとすっと流れ落ちるフォークの歯の間から素早く流れ落ちるカップを傾け、流れ出た後には、うっすらと跡が残程度の付着 |
スプーンを傾けるととろとろと流れるフォークの歯の間からゆっくりと流れ落ちるカップを傾け、流れ出た後には、全体にコーティングしたように付着 |
スプーンを傾けても、形状がある程度保たれ、流れにくいフォークの歯の間から流れ出ないカップを傾けても流れ出ない(ゆっくりと塊となって落ちる) |
|
粘度 (mPa・s) 【II-5項】 |
50-150 |
150-300 |
300-500 |
|
LST値 (mm) 【II-6項】 |
36-43 |
32-36 |
30-32 |
|
シリンジ法による 残留量 (ml) 【II-7項】 |
2.2-7.0 |
7.0-9.5 |
9.5-10.0 |
※「日摂食嚥下リハ会誌25(2):135–149, 2021」または日本摂食嚥下リハ学会HPホームページ「嚥下調整食学会分類2021」(下記URL)を必ずご参照ください。

誤嚥性肺炎は主な死因の一つ
厚生労働省が公表している「人口動態統計(確定数)」によると、令和6(2024)年における死因順位の第6位に誤嚥性肺炎がランクインしています。誤嚥性肺炎は、誤嚥が起きると同時に細菌も気管支や肺に入り込んでしまうことで発症します。嚥下機能が低下している高齢者や脳神経系の疾患を抱える方などに多く見られるようです。
ここで、実際に起きた誤嚥の事故事例をみてみましょう。
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【事例①】 特別養護老人ホームに入所していた80代男性Aさん(パーキンソン病あり) 発生時期:令和3(2021)年11月26日 |
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Aさんは朝食として提供されたロールパンを誤嚥。病院に緊急搬送されましたが、亡くなりました。実は、1ヵ月半前にも朝食でむせた事実があったものの、そのことは介護記録に書かれていなかったようです。Aさんのご遺族は、施設の運営元に対して損害賠償を求める裁判を起こしています。判決では、運営元が約2,500万円の賠償金を支払うよう命じられました。 |
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【事例②】 総合医療センターに転院してきた50代女性Bさん(高次脳機能障害あり) 発生時期:令和7(2025)年7月 |
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高次脳機能障害を抱えるBさんは、骨折をきっかけに転院。以前の入院先からは食事提供に関する情報(粥、やわらかい惣菜など)が共有されていたようです。しかし、総合医療センターでの確認が不十分だったため、転院日の翌朝に朝食のパンを誤嚥してしまいました。一時的に心肺停止にまで陥り、一命は取り留めましたが、低酸素脳症による意識障害が発生。令和8年3月26日現在も意識不明の状態が続いています。 |
現場ではこういった事例だけでなく、「食形態の指示・対応ミスはなかったが誤嚥しかけた」「食膳の取り違えに気付いた」などのヒヤリハットもあります。事故の発生リスクを下げるためには、何よりもまず、病院や介護福祉施設側が嚥下調整食の必要性・重要性を十分に理解し、患者や利用者が安心して食べられる環境や体制を整えることが不可欠です。
嚥下調整食を提供する際のポイント

嚥下調整食を提供する際には、適切な形態・とろみに調整すること以外にも押さえておくべきポイントがあります。
①栄養バランスのとれた献立を考える
嚥下調整食には「食の安全を守る」という目的がありますが、食事本来の役割である栄養補給についても配慮しなくてはなりません。病院や介護福祉施設の食事は治療、健康維持をサポートする意味もあります。栄養が不足したり偏ったりすると、回復の遅れや急な体調不良などにつながることも。嚥下調整食は普通食と比べて食事摂取量が減少しやすいため、少量でも栄養が十分にとれるような献立作成が求められます。
②食欲増進を図る
嚥下調整食には、食欲を刺激する工夫も必要です。食材を細かく刻んだり、ミキサーにかけたりする嚥下調整食は、普通食と見た目が大きく異なります。その見た目が食欲を低下させることもあるため、食欲増進につながる彩りや盛り付けを心がけなくてはなりません。
また、食事の香りや温度も大切です。ハーブやスパイスを活用し、温かい料理は温かいまま、冷たい料理は冷たいまま提供することで、食欲増進の効果をもたらします。このほか、患者や利用者が好きな食べ物を取り入れたり、好みの味付けにしたりするのもおすすめです。
③安全な食事環境を整える
嚥下機能や咀嚼機能が低下している方の場合、嚥下調整食を提供しただけで食事が完結するわけではありません。口腔状態、食べるときの姿勢、使用する食具(自助具)などの確認 も非常に重要です。
個別の状態によって対応レベルは異なりますが、看護師や介護士などによる食事介助を行ったり、食事中の様子を見守ったりする環境も整えなければならないでしょう。職員の目が届くようにしておくと、何らかの問題が起きた場合にも、素早く対処することができます。
嚥下調整食への対応は現場に負担がかかることも

嚥下調整食への対応は、厨房職員の負担が増えてしまうケースも少なくありません。負担増加の主な要因として、以下のような点が挙げられます。
①調理に手間と時間がかかる
調理工程が複雑な嚥下調整食は、普通食を調理するよりも手間と時間がかかります。しかし、個別の状態にあわせるため、まとめて作れないこともあるのです。種類が多ければ、その分だけ負担も増えてしまいます。
②食事全体が多様化している
病院・介護福祉施設では、一時的な疾患や持病を考慮した治療食も提供します。カロリー・脂質・たんぱく質・食塩等の制限、アレルゲンの除去など、対応すべき内容は多岐にわたります。こうした細かい業務も加わるため、厨房の負担はなかなか軽減されません。
③コストを抑えた献立作成・栄養管理が難しい
病院・介護福祉施設が受け取る基本的な報酬は公定価格です。嚥下調整食は食材費が高くなりがちで、献立内容や栄養面を充実させるためのコストはあまり割くことができません。さらに、近年は各種コストが高騰しているため、厨房ではこれまで以上の工夫や対策が必要とされているのです。
④人材不足と職員の高齢化が進んでいる
医療・介護福祉分野では人材不足と職員の高齢化が進んでいますが、厨房でも同様の問題が起きています。嚥下調整食への対応で業務量が増えれば、少人数で回すことが難しくなったり、高齢職員の負担が大きくなったりするでしょう。
嚥下調整食を外注する場合の選択肢

病院や介護福祉施設で嚥下調整食への対応が難しい場合には、「外注」という選択肢もあります。もちろん相応のコストはかかりますが、次のようなメリットも生まれます。
- ノウハウを持つ専門業者に任せることができる
- 嚥下調整食の品質や味が安定する
- 厨房職員の実務的な負担が軽減される
- 厨房の省人化や業務効率化が実現しやすくなる
主な外注先は、給食委託業者と配食サービスです。嚥下調整食の提供を任せるため、業者の選定基準は「医療・介護福祉分野に強いこと」が大前提となりますが、ほかにも押さえておきたいポイントがあります。
|
選定基準 |
期待される主な効果 |
|
HACCPに沿った衛生管理を行っている |
・食中毒などの発生リスクが下がる ・食の安全性向上につながる |
|
円滑なコミュニケーションがとれる (担当者の人柄、企業の雰囲気などを確認) |
・些細なことでも気軽に相談できる ・外部であっても連携がとりやすい |
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臨機応変な対応力がある (イレギュラーな事情への対応可否) |
・患者や利用者に寄り添った食事が提供できる ・喫食率や食事満足度が上がる |
|
献立や食形態のバリエーションが豊富 |
・患者や利用者が飽きずに食事を楽しめる ・長期的に任せることができる |
コストについては、削減できるに越したことはありません。しかし、外注は自施設で完結するよりもコストがかかる傾向にあります。そのため、総合的にみて費用対効果が高いかどうかを判断するといいでしょう。
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